衣装デザイナー、モナ・メイが作り上げた斬新なファッション
もうひとつ、この映画を語るうえで欠かせないのは、主人公たちがまとう色とりどりのファッション。監督のヘッカーリングと衣装デザイナーのモナ・メイは、現代の高校生のファッションを知るため、まずはロサンゼルスの高校を訪ねてみた。だが当時高校生の間で流行っていたのは、フランネルのチェックシャツにだぼだぼのジーンズ。それはヘッカーリングたちの好みに合うものとはいえなかった。そこで彼女たちは、実際の流行そのままではなく、当時必ずしも流行っていたとはいえないプレップ(名門私立高校)・スタイルを映画に取り入れることを決意。モナ・メイがリサイクルショップで見つけたヴィンテージものと最新のハイ・ファッションとを融合させながら、ある種のファンタジーとして、女子高校生たちの流行ファッションをつくりあげたのだ。
ヘッカーリングとメイが特にこだわったのは、ミニスカートと太腿まであるオーバーニーソックス。ドルチェ&ガッバーナの黄色いタータンチェックのジャケットにミニスカート、それに白のオーバーニーソックスを合わせたシェールは『クルーレス』のイメージを決定づけた。他にも、真っ赤なミニドレス、シルバーのパンプスなど、シェールやディオンヌが身につけるファッションの数々は、世界中に一大センセーションを巻き起こした。
『クルーレス』(c)Photofest / Getty Images
パソコンでその日に着る服をシミュレーションし、親友ディオンヌとのバランスも考えながら高級ブランドを取っ替え引っ替えするシェールは、いかにもビバリーヒルズに住む富裕層らしい。一方、中産階級出身のタイは、当初ビッグサイズのシャツに擦り切れたジーンズを履き、マリファナに夢中な女子学生として登場する。そんなタイのファッションを大改造し、自分たちのようなクールな高校生に仕立て上げようと奮闘するシェールとディオンヌの姿は、現実の高校生たちのファッションに魅力を感じられず、自分たち流のスタイルを新たにつくりあげた監督とモナ・メイそのものだったといえる。劇中で、男子たちが履く腰履きの小汚いジーンズ姿に、シェールが「こんなの全然おしゃれじゃない」と悪態をつくのは、まさに二人の心の声だ。