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『クルーレス』賢く逞しいヒロイン像を提示した傑作学園コメディ

(c)Photofest / Getty Images

『クルーレス』賢く逞しいヒロイン像を提示した傑作学園コメディ

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賢く逞しいヒロイン像を提示した『クルーレス』



 『クルーレス』は興行的に大きな成功をおさめ、主演のアリシア・シルヴァーストーンは一躍スター俳優に、ポール・ラッドやブリタニー・マーフィーらも、その後数々の映画に出演する。もちろん、今この映画を見ると、倫理的にまったく引っ掛かりを感じないとは言い難い。ディオンヌとその彼氏は黒人だが、基本的には白人の裕福な高校生たちが主役の物語であり、彼らの恋愛は当然のように異性愛が中心だ。唯一のゲイの登場人物であるクリスチャンは、おしゃれでアート好き、そして最終的には主人公の親友になるという、ひと昔前のゲイのステレオタイプを脱し切れていない。シェールの運命の恋のお相手が、年上の大学生で父親の元再婚相手の連れ子、というのも微妙なところだ。それでも、青春映画といえば男の子たちの話が中心となることが多かった90年代において、あくまでも若い女の子の視点をもとにつくられたこの学園コメディがもたらした功績は実に大きい。



『クルーレス』(c)Photofest / Getty Images


 何より『クルーレス』のシェール・ホロヴィッツが新たなヒロイン像として若い女性たちを魅了したのは、おしゃれやパーティに夢中なシェールを、ただおバカな女の子として断罪するのではなく、彼女が本来はとても有能で思慮深い人間であることを示してみせたことにある。これまでの行いの浅はかさを自覚した彼女は、他人のために何かをしたい、という思いを、友人のおしゃれ化計画ではなく、社会貢献という形に転換するのだ。「おしゃれに夢中だからといってバカな女なわけじゃない」という力強い宣言は、後の『キューティ・ブロンド』(ロバート・ルケティック、01)のヒロイン像にも影響を与えたはず。自分の軽率さを反省し、正しい方向に軌道修正できる知性と勇気がある女性としてシェールを描けたのは、女性監督として男社会のハリウッドで闘ってきたエイミー・ヘッカーリング監督だからこそできたことだろう。


 映画の成功後、『クルーレス』は1996年にテレビドラマシリーズ化され、3シーズンにわたって放映された。2015年には公開から20周年を記念した書籍が発売、2018年にはオフ・ブロードウェイでミュージカル版が上演され、ヘッカーリングはその脚本を手がけた。まだ実現には至っていないようだが、2020年には、ディオンヌを主役にしたテレビドラマ版が製作されると報道された。『クルーレス』はいまも不朽の学園コメディとして語られつづけている。



参考文献

長谷川町蔵、山崎まどか「ハイスクールUSA アメリカ学園映画のすべて」2006年、国書刊行会

Julie Miller ‘The Unlikely Inspirations Behind Clueless’s Costume Design’“VANITY FAIR”12 June 2015



文:月永理絵

映画ライター、編集者。雑誌『映画横丁』編集人。『朝日新聞』『メトロポリターナ』『週刊文春』『i-D JAPAN』等で映画評やコラム、取材記事を執筆。〈映画酒場編集室〉名義で書籍、映画パンフレットの編集も手がける。WEB番組「活弁シネマ倶楽部」でMCを担当中。 eigasakaba.net



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