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『リンカーン』歓喜のベル、祝福の光

(c)Photofest / Getty Images

『リンカーン』歓喜のベル、祝福の光

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執筆に6年を費やした脚本



 スティーヴン・スピルバーグは、並外れたワーカホリックであると同時に、尋常ならざるスピードでプロジェクトを遂行してしまうアジリティの持ち主でもある。『ジュラシック・パーク』(93)と『シンドラーのリスト』(93)を同時並行で製作したことは今や語り草だが、『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(17)に至っては、企画の立ち上げから劇場上映までに1年も要していない。しかも彼は、『レディ・プレイヤー1』(18)のポスト・プロダクション作業をやりつつ、この社会派映画を創り上げたのだ。GOサインが出れば、光の速さで完パケしてしまう。


 その一方で、長い年月をかけて一本の作品を仕上げる場合もある。例えば『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』(11)。最初に原作漫画と出会った1981年から、やっと公開に漕ぎ着けた2011年まで、30年という時間を要している。『リンカーン』もこの系譜に連なる作品だろう。スピルバーグはこの映画に、10年以上もの歳月を費やした。


 2001年にプロジェクトが立ち上げられると、『グラディエーター』(00)や『アビエイター』(04)で知られるジョン・ローガンが脚本を執筆し、さらに劇作家のポール・ウェブが雇われて修正作業を行った。歴史家のドリス・カーンズ・グッドウィンによって、「Team of Rivals: The Political Genius of Abraham Lincoln(チーム・オブ・ライバルズ: エイブラハム・リンカーンの政治的天才)」という書籍が出版されると、今度は『ミュンヘン』(05)でスピルバーグと仕事をしたトニー・クシュナーが起用される。



『リンカーン』(c)Photofest / Getty Images


 彼は執筆に6年を費やした。それだけクシュナーは迷いに迷いながら、リンカーンの物語を紡いでいったのだろう。曰く、「ウィリアム・シェイクスピアがどうやって「ハムレット」を書いたのか、モーツァルトがどうやって「コジ・ファン・トゥッテ」を書いたのか分からないのと同じ意味で、リンカーンがどうやったのか分からなかった」。それでも彼は、どうにかこうにか550ページにも及ぶシナリオを書き上げる。


 当初スピルバーグは、リンカーン大統領の目を通して南北戦争を語ろうと考えていた。彼の最後の3年間を描く伝記映画として作る予定だった。だがクシュナーの脚本を一読して、奴隷制の廃止に物語の焦点を当てることが最良の選択であることを確信する。


 「脚本は550ページにも及んでいた。私にとって最も説得力があったのは、奴隷制を廃止する修正第13条を成立させるための闘争を描いた、65ページぶんのパートだった。(中略)私は立ち上がって、“これだ!これが私たちの物語だ、これが私たちの映画だ!”と言ったんだ」(*1)


 『シンドラーのリスト』や『プライベート・ライアン』がほぼ屋外で撮影された作品だったのに対し、『リンカーン』は基本的に屋内で描かれる、異例の“密室映画”。あえてスピルバーグは非アクション映画に舵を切った。





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