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『ニア・ダーク/月夜の出来事』B級というなかれ!剛腕監督キャスリン・ビグローの原点

(c)Photofest / Getty Images

『ニア・ダーク/月夜の出来事』B級というなかれ!剛腕監督キャスリン・ビグローの原点

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ビグローは西部劇を撮りたかった



 あらすじだけを追えば、これがホラーであることは理解できるだろう。実際、バイオレンスやスプラッターの描写は少なくない。が、本作にはそれだけにとどまらないエッセンスがある。まず、ケイレブとメイのラブストーリー。最初はケイレブに気のなかったメイも、自身のせいで彼が吸血鬼になってしまったことに責任を感じており、それは彼への愛情へと次第に変化していく。一方のヴァンパイアとなったケイレブは人を殺せない以上、彼女が分けてくれる血にすがるしかない。


 また、本作にはふたつの家族のドラマもある。ひとつはメイが所属する吸血鬼グループの疑似家族。リーダーのジェシーは“ファミリー”を守るために仲間を統率する父親のような存在だ。一方では、ケイレブを必死に探し続ける実の父ロイがいる。後半でケイレブは、このふたりの“父親”の前で究極の選択を迫られる。



『ニア・ダーク/月夜の出来事』(c)Photofest / Getty Images


 もうひとつ見逃せないのは、西部劇のエッセンスだ。そもそもビグローと、共同脚本を務めたエリック・レッド(『ヒッチャー』/86)は西部劇を作りたいと切望していたが、当時斜陽だったこのジャンルに出資する者がおらず、流行のホラーをそこに入れ込むことに妥協点を見出した。本作の吸血鬼グループは現代のアウトローであり、各地を転々としながら悪事を働くならず者一味だ。警官隊に包囲され、凄まじい銃撃戦を演じることで生き延びる場面もある。さらにクライマックスでは、大通りで馬に乗ったケイレブが敵と対峙するという西部劇さながらの見せ場もある。


 本作を現代のドラマにするために、ビグローは吸血鬼映画の伝統をバッサリと切り捨てた。たとえば、十字架やニンニクに弱いというゴシック的な要素。本作の吸血鬼の弱点は陽の光のみで、それさえ避けられれば永遠に生き続けることができる。一方で、ビグローはすべての吸血鬼映画の原点であるブラム・ストーカーの小説「ドラキュラ」から、吸血鬼映画の多くが無視してきた、体内の血を入れ替えれば人間に戻れるという設定を拝借している。





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