2024.03.11
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アカデミー監賞に風穴を開けた女性
米アカデミー賞で女性監督がオスカーを射止めることが少なくなくなった昨今。2020年代に入ってからも『ノマドランド』(20)のクロエ・ジャオ、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(21)のジェーン・カンピオンが受賞している。2024年の第96回も『落下の解剖学』で、ジュスティーヌ・トリエが監督賞にノミネートされた。
そんなアカデミー賞において、女性監督に門戸を開いた存在といえば、やはりキャスリン・ビグローだろう。彼女は2008年に『ハート・ロッカー』でアカデミー監督賞を受賞したが、女性監督が同賞に輝いたのは82回の歴史の中で初めてのこと。しばしば保守的と揶揄されるアカデミー賞に、風穴が開いた歴史的瞬間だった。
そんなビグロー監督が、自作の中でもっとも好きと公言しているのが、キャリア初期の低予算映画『ニア・ダーク/月夜の出来事』(87)だ。彼女は1981年の『ラブレス』でモンティ・モンゴメリーと共同で演出を務め、監督デビューを果たしているが、単独での監督は本作が初。それだけに自身の思い入れも強い。本稿では、彼女のフィルモグラフィーの中では地味だが、見逃すわけにはいかない本作について語ってみたい。
『ニア・ダーク/月夜の出来事』予告
まずは簡単にストーリーを。カウボーイの若者ケイレブは、ある夜、メイという女性と出会い心惹かれる。ところが彼女は吸血鬼であり、人間を殺して血を吸わなければ生きていくことができない。幸いにも殺されずに済んだケイレブだったが、彼女に甘噛みされたことで自らも吸血鬼となってしまう。メイが行動をともにしている吸血鬼グループは、そんな彼を放っておくにわけに行かず、殺人行脚の旅に同行させる。しかしケイレブはどうしても人を殺すことができずにいた。一方、ケイレブの父は失踪した息子の行方を幼い娘とともに捜索し、やがて思わぬかたちで再会を果たす……。