対決の構図に、ノーランの愛するあの名作の影が
舞台は19世紀末、ヴィクトリア朝時代のイギリス、ロンドン。主人公のアンジャーとボーデンは、それぞれに大衆の心をつかんでいる奇術師でライバル同士だ。彼らの根深い因縁は修業時代、奇術のアシスタントを務めていたアンジャーの妻が水中脱出マジックに失敗し、死亡したことにさかのぼる。奇術用に彼女の腕をロープで縛ったのがボーデンだったことから、アンジャーは彼を恨み、復讐を誓う。マジシャンとして独り立ちした後、アンジャーはボーデンのマジックを失敗させ、ボーデンは指を2本失う大ケガを負った。ボーデンも負けじとアンジャーのトリックを暴き、舞台上で恥をかかせた。敵対心に憎悪も加わり、彼らの戦いは熾烈化していく。
原作はクリストファー・プリーストが1995年に発表した小説「奇術師」。この小説に惚れ込んだノーランは映画化を想定して弟のジョナサンに脚本化を依頼する。ところが、『アメリカン・ビューティー』(99)でアカデミー賞を受賞したサム・メンデスも、この小説の映画化に意欲を燃やしていた。ノーランにとって幸いだったのは、彼の出世作『メメント』(00)をプリーストがとても気に入っていたこと。かくして企画はノーランの手に委ねられる。
『プレステージ』(c)Photofest / Getty Images
花形奇術師アンジャーにふんしたのはヒュー・ジャックマン。ブロードウェイの経験も豊富な彼は舞台映えすることから、ノーランはぜひとも彼にこの役を演じて欲しいと考えていた。一方、私生活を犠牲にしてマジックに打ち込むボーデン役にはクリスチャン・ベール。ノーラン作品には『バットマン ビギンズ』(05)に続く主演となるが、その影のある個性はミステリアスなボーデン像にピタリとハマッており、ノーランはそんな俳優たちの個性の対比を気に入っていた。
ノーランに多大な影響をあたえた作品として、マイケル・マン監督の『ヒート』(95)が挙げられる。『インソムニア』(02)や『ダークナイト』などで、男たちの敵対関係を時に激しく、時に補完し合うように描いてきたノーランだが、本作でもそんな『ヒート』の流儀が生かされた。