個性的でエキセントリックな奇術師たちの競演
物語は中盤になると、瞬間移動芸を競うバトルにシフトする。アンジャーの芸のからくりをボーデンはすぐに見破った。ところがボーデンのトリックをアンジャーは見破ることができない。苦悩の果てに、アンジャーはボーデンのトリックを暴くのではなく、ボーデンを超える瞬間移動芸を生み出そうとして発明家のニコラ・テスラを頼る。そしてテスラは、アンジャーの想像を超えるほどの奇術装置を作り出そうとしていた……。
アンジャーとボーデンは架空の人物だが、テスラは実在した科学者、兼発明家。ノーランは物語のトーンを整えるため、テスラを現実離れしたキャラクターとして描こうとした。この役に抜擢されたのは、今は亡きカリスマ・ミュージシャン、デヴィッド・ボウイ。ノーランは映画監督ニコラス・ローグの大ファンであり、『地球に落ちてきた男』(76)で異星人を演じたボウイの存在を求めていた。この頃のボウイはアーティスト活動も俳優活動も休業中で、ノーランからのオファーに気乗りしなかったという。それでも熱心に口説いたことが功を奏した。ボウイが演じたテスラは浮世離れした、ある意味、もうひとりの奇術師のような雰囲気を醸し出している。
『プレステージ』(c)Photofest / Getty Images
ともかく、テスラの革新的な技術を得て、アンジャーは隙のない瞬間移動芸をやり遂げる。ボーデンはこれまでアンジャーのトリックをことごとく見破ってきたが、これだけは何度見ても見破ることができない。映画のクライマックスではそれが明かされ、さらにボーデンの瞬間移動芸のタネも明らかになる。それについては、ぜひ観て驚いて欲しい。
他にも、本作にはアンジャーとボーデンの師匠であり、奇術師の座を退いてからはステージ用のトリックの考案者となっているカッターという男が登場する。演じるは、ノーラン作品の常連マイケル・ケイン。頭に血が上って争い合うアンジャーとボーデンを冷静な視点で見つめると同時に、観客に対してトリックではなく真実を語る。そんなカッター像を、ケインはベテランの貫禄を漂わせつつ演じている。