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『プレステージ』クリストファー・ノーランの真の“偉業”を問う傑作

(c)Photofest / Getty Images

『プレステージ』クリストファー・ノーランの真の“偉業”を問う傑作

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エゴという人間の弱さでミスリードするストーリーテリングの妙



 この中で、もっとも優れたマジシャンは誰か? 結局のところ、それはノーラン監督に他ならない。映画の冒頭で、ノーランはすでにアンジャーのトリックのタネをさりげなく明かしている。たとえば、ボーデンが冒頭で目にする水槽の中身。また、地面に転がるたくさんのシルクハット。その意味するところを観客が気づくのは、クライマックスまで待たねばならない。


 その後の物語にも、クライマックスにつながる多くの要素が含まれる。本作を2度3度見れば、ノーランが巧妙に張り巡らした伏線に気づくに違いない。たとえば、ボーデンの瞬間移動のタネを明かす逸話は、セリフやキャラクター描写など、いたるところに見ることができる。しかし、我々観客はノーランのミスリードに導かれ、ときに疑ったり、ときに納得したりしながら、映画というショーの行く末を見守ることになるのだ。



『プレステージ』(c)Photofest / Getty Images


 ノーランの巧みなミスリードの最大のポイントは、アンジャーとボーデンの、おたがいを打ち負かそうとするオブセッションの壮絶なぶつかり合いだろう。物語を追う我々観客は、そちらに夢中になり、トリックそのものにはなかなか気づかない。一方のエゴが他方のエゴの先に出たとき、観客は遅れを取った側に肩入れする。俗にいう“判官びいき”というやつだ。人間はエゴから、なかなか逃れられるものではない。本作で物語を動かすのは、そのような人間の“弱さ”なのだ。


 “プレステージ”とは“偉業”を意味し、奇術の分野では最後の仕上げの段階に相当する。劇中でも説明されるが、マジックは3つの段階から成立している。最初の“プレッジ(=確認)”では、ごく普通のことを見せる。次の“ターン(=展開)”では、普通のことが異様なことに変化する。それに続くのがプレステージ。映画作りは奇術とよく似ていると、ノーランは語る。そんな彼のプレステージを、ぜひ本作で堪能して欲しい。



文:相馬学

情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。



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