2024.05.15
パルパティーンの立身出世物語
『スター・ウォーズ』のプリクエル・トリロジーは、アナキン・スカイウォーカーがダークサイドへと堕ちていくまでを描いたジェダイの悲劇だが、同時にダース・シディアスことパルパティーンが権謀術数をめぐらして元老院最高議長の座に就き、全銀河を支配するまでを描いた“立身出世物語”でもある。
まるでケヴィン・スペイシーが大統領の座を狙う野心家下院議員を演じる「ハウス・オブ・カード 野望の階段」(13〜18)のように、あの手この手を繰り出して政権の中枢へと切り込んでいく。『ファントム・メナス』ではその気配を感じさせるだけだったが、『クローンの攻撃』ではパルパティーンの黒い野望がいよいよ爆発する。
「鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス」、「鳴かぬなら 鳴かせてみせよう ホトトギス」、「鳴かぬなら 鳴くまで待とう ホトトギス」は、織田信長・豊臣秀吉・徳川家康の性格を端的に表した句として有名だが、パルパティーンは確実に「鳴くまで待とう」の家康タイプだろう。時が熟すまでは十年経っても動かず、自分がシスであることはおくびにも出さずに、ゆっくりと時間をかけて元老院での信頼を築いていく。
表向きは、銀河共和国からの離脱を目指す分離主義勢力との対立姿勢を見せておきながら、その陰ではドゥークー伯爵を操ったり、クローン・トルーパーの大兵団を生産したり、精神面に脆さのあるアナキンを懐柔したり、その裏工作ぶりには舌を巻く。政治家としてめちゃめちゃ優秀なのだ。
『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』予告
パルパティーンが巧みなのは、『ファントム・メナス』にも登場した通商連合と結託したこと。彼らは銀河系の交易を取り仕切る貿易カルテルで、GAFAばりの巨大企業。共和国で辺境の星との交易にも課税をするべきか否かの議論が噴出すると、ナブーの航路を封鎖して事態を牽制するという暴挙にも出ている。ひたすら利潤を追い求める企業体で、貨物を護るために独自の軍事力も有している通商連合は、非常に都合のいいパートナー。政治家ではなく企業を仲間に入れるという発想が、策士たる所以だろう。
彼が目指すのは、協議制による民主的な政治システムを放棄し、皇帝が全ての権力を掌握する独裁体制。しかも彼は、正当な選挙によってそれを実現させてしまう。多くの支持を集めて元老院最高議長に就任すると、クローン戦争時に非常時大権を発動して軍隊を創設。元老院を解散させて自ら皇帝を名乗り、銀河帝国を築き上げる(『エピソード3/シスの復讐』)。そのプロセスは、まるでアドルフ・ヒトラーを見ているようだ。
民主主義によって選ばれた最高権力者によって、民主主義が崩壊してしまう。アナキンとパドメのロマンス、怒涛のクライマックスと見どころの多い『クローンの攻撃』だが、この映画は“民主主義の終焉を描く政治劇”としての骨格をまとった作品でもあるのだ。
(*1)https://www.empireonline.com/movies/features/star-wars-archive-george-lucas-1999-interview/
(*2)https://www.esquire.com/entertainment/movies/g19457800/all-star-wars-movies-ranked
文:竹島ルイ
映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。
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