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『異人たち』アンドリュー・ヘイが描く、山田太一の「敗者の想像力」

(C)2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

『異人たち』アンドリュー・ヘイが描く、山田太一の「敗者の想像力」

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80年代のロンドンと当時の音楽&映画事情



 筆者がロンドンを初めて訪問したのも80年代後半だった。記憶の中にある当時の街はどこかくすんでいた印象がある。ニコラス・ローグ、スティーヴン・フリアーズ、ピーター・グリーナウェイをはじめ、映画人たちにも取材をしたが、多くの人は当時のサッチャー政権への不満を口にしていた。映画人の製作の原動力の底に、アンチ・サッチャーの意識があったことは間違いない。


 『ラスト・オブ・イングランド』(87)などで知られるゲイの英国監督デレク・ジャーマンも、そうした当時の保守的な動きに不満を持つひとりで、80年代後半に来日した時は、かなり辛辣なコメントを連発していた。前述の「セクション28」への怒りは、特に91年の『エドワードII』などに顕著に出ていた。ゲイ差別撤廃の運動にも力をつくしたジャーマンは、結局94年に52歳でエイズのため亡くなる。


 一方、80年代のポップ・ミュージックの世界では、いい意味でゲイ・パワーが炸裂していて、今回の映画にも登場するフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドペット・ショップ・ボーイズなどが大きな成功を収めていた。他にもブロンスキー・ビートカルチャー・クラブなど、ゲイ的なミュージシャンが注目された時代でもある。



『異人たち』(C)2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.


 前述の“The Guardian”の取材で、ヘイ監督は「当時のポップ・ミュージックは自分にとってはすごく大切なものだった。当時、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの『パワー・オブ・ラブ』をベッドに座って口ずさんだ。その本当の意味は分かっていなかったと思うけれどね」と語っている。


 また、劇中では当時は人気のあったファイン・ヤング・カニバルズの曲「ジョニー・カム・ホーム」なども流れる。「このグループのローランド・ギフトはゲイではないけれど、彼の歌声はすごく自分に響くものがあった」とヘイは言う。


 ギフトは俳優としてスティーヴン・フリアーズの『サミー&ロージー それぞれの不倫』(87)にも出演していて、風のように歩く姿が印象的。こうした80年代のポップ・ミュージック界の新しいミュージシャンが、監督の心の慰めになっていたのだろう。



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