X-RVとは
筆者がこの映画を名古屋の「中日シネラマ劇場」で鑑賞した時、まだ小学5年生だったが、このX-RVの登場にはかなり違和感を覚えた。それまでのアメリカの宇宙船と言えば、マーキュリー、ジェミニ、アポロなど、円錐と円筒の組み合わせが定番だったからだ。
しかしこのX-RVは、『サンダーバード』(65)(*2)から抜け出たような、スマート過ぎる印象で、まったくリアリティを感じなかったのである。だが、日本の一般人(ましてや小学生)が知らなかっただけで、この機体はただの空想ではなかった。当時の劇場パンフレットには、「米国空軍の実験的救助船X24号に相当するもの」と説明されている。
X24号とは、NASA飛行研究センター(現・アームストロング飛行研究センター)とアメリカ空軍の共同研究によるPILOT計画のために、マーティン・マリエッタ社で開発されたリフティングボディ機「X-24A」(*3)を指していると思われる。しかしこのX-24Aは、垂直尾翼が3枚あり、2枚しかないX-RVには似ていない。
実は、ケイディン(もしくはフランコヴィッチ)に直接的なヒントを与えたと思われる文書が存在する。マーティン・マリエッタ社のウィリアム・J・ノーマイルによって、雑誌「Aviation Week & Space Technology」(October 18, 1965)に発表された、「Need Seen for Global Space Rescue Code」(世界的な宇宙救助規則の必要性)という記事がそれだ。ノーマイルの主張は、「今後宇宙開発が盛んになるにつれ、宇宙飛行士が軌道上に取り残される可能性が高くなり、宇宙救助規則と国際救助サービスの確立が必要となる」というものだった。
この記事に用いられたマーティン・マリエッタ社のイラストは、同社のリフティングボディ機「SV-5」が軌道上で故障したアポロ宇宙船を救助するという様子を描いている。このSV-5のイラストは、劇中のX-RVに瓜二つであり、これがそのまま映画のコンセプトアートの役割を果たしたと言っても過言ではないだろう。
そうかと言って、ノーマイルのアイデアをケイディン(もしくはフランコヴィッチ)がパクったとは言えない。ケイディンの1964年版小説は、この記事が載る1年半前に出版されている。この小説に描写されているのは、リフティングボディ機ではなく、ジェミニ宇宙船とボストーク宇宙船ではあるが、そもそも「米ソは冷戦下でも、宇宙空間では助け合うことが必要だ」というのがケイディンの主張だった。だから、彼の小説(もしくは本人の意見)が、ノーマイルに影響を与えた可能性もある。
そして1966年に、マーティン・マリエッタ社が「SV-5D」として試作した機体が空軍に納品され、実験機・記録機を意味するXプレーンとして「X-23 PRIME」と命名される。この機体は無人ではあったが、実際に「アトラスSLV-3ロケット」により、3回に渡って大気圏外へ打ち上げられた。
ちなみに、劇場パンフレットに書かれていたX-24シリーズは有人機だったが、あくまでも大気圏内での飛行実験に留まっている。そしてその研究成果は、スペースシャトルや、ボーイングの無人機「X-37」、ISSからの緊急脱出用機「X-38」、シエラ・スペース社の「ドリームチェイサー」などに発展した。
(*2)どちらかと言えば、『謎の円盤UFO』(70)のルナ宇宙艇や、『決死圏SOS宇宙船』(69)のダブ宇宙船の方が似ているが、当時日本ではどちらも未公開だった。
(*3)X-24Aの前に、M2-F1(64)、HL-10(66)、M2-F2(66)、M2-F3(70)といったリフティングボディ機の実験が行われている。この内M2-F2では、1967年5月10日に行われた16回目の滑空飛行テストで、パイロットのブルース・ピーターソンが事故を起こし、片目を失った。この時の記録映像は、SFテレビシリーズ『600万ドルの男』(73~78)のオープニングシーンに使用されている。ちなみにこのドラマの原作も、ケイディンのSF小説「Cyborg」(72)だった。『600万ドルの男』は日本でも放送されていたが、むしろスピンオフシリーズである『地上最強の美女バイオニック・ジェミー』(76~78)の方が有名だろう。