※本記事は物語の核心に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。
2024年9月、ISS(国際宇宙ステーション)に係留されていたボーイング社の有人宇宙船「スターライナー」が、無人で帰還した。推進システムのヘリウム漏れに加え、28基ある姿勢制御用スラスターのうち5基が使用不能になる事態が発生したためである。2名のクルーは2025年2月以降にスペースX社の「クルードラゴン」9号機で帰還させる予定だという。幸いISSには、こういう事態に備えてのシステムが備わっているし、いざとなればロシアの「ソユーズ宇宙船」も、緊急帰還船の役割を果たす。
しかしこれが、大気圏再突入の直前に起きたトラブルだったら、いったいどうなっていただろう。姿勢制御用スラスターが動作しなければ、再突入への軌道修正もできない。こういった事件をテーマとした映画に『宇宙からの脱出』(69)が存在する。
Index
あらすじ①
ケネディ宇宙センターから、「アイアンマン1号」と命名された「アポロ宇宙船」(*1)が打ち上げられる。搭乗しているのは、船長のジム・プルエット(リチャード・クレンナ)と、バズ・ロイド(ジーン・ハックマン)、クレイトン・ストーン(ジェームズ・フランシスカス)の3名。彼らのミッションは、宇宙ステーションで長期間の滞在を試すというものだった。
当初のプランでは、7カ月の滞在が計画されていたが、ロイドが極度の疲労から実験ミスを繰り返し、貴重な観測機器をダメにしてしまう。NASAのプロジェクトリーダーであるチャールズ・キース博士(グレゴリー・ペック)は、計画を5カ月で終了させると決定し、3名に地球への帰還を命ずる。
そしてアイアンマンが、いざ大気圏へ再突入しようと逆噴射のスイッチを入れるが、メインエンジンにまったく反応がない。コンピューターを介さず、手動操作にしても同じだ。コントロールパネルには、正常に噴射したことを表すランプが緑色に光っているが、逆噴射したことを感じさせる衝撃が来ない。補助スラスターを用いるにも、もう燃料が残っておらず、宇宙ステーションに戻ることもできない。
ヒューストンのミッションコントロールセンターでは、見学していた飛行士の妻たちに、帰還できないことが告げられる。一番若いテレサ・ストーン(ナンシー・コヴァック)は動揺が隠せないが、先輩格のベティ・ロイド(マリエット・ハートレイ)とセリア・プルエット(リー・グラント)は、焦っても仕方がないことを理解していた。
NASAの各研究所や関連施設では、1万5,000人のスタッフが、これまでの記録テープを全て再生して問題点を見付け出す努力を続けたが、特定には至らない。ヒューストンで行われた緊急記者会見では、集まった報道陣がレベルの低い質問ばかりをキースにぶつけ(この辺りは日本の記者とほとんど同じだ)、彼は苛立ちを隠せない。
アイアンマンでは、ロイドの精神状態が再び不安定になり、「船外へ出て修理すべきだ」と主張し始める。一方、冷静なストーンは地球を眺めていて、キューバの周辺に巨大な熱帯低気圧の兆候を見付ける。
NASAの研究所では、アイアンマンと同条件のエンジンを用いて試験を繰り返したが、まったく問題なく逆噴射に成功してしまう。エンジニアたちは故障の原因を特定できず、もうお手上げの状態だった。この報告を受けた会議室では、キースが救出の見込みはないと判断し、プロジェクトの中止を決定する。
しかしそれに異議を唱えたのが、主任宇宙飛行士のテッド・ドハティ(デヴィッド・ジャンセン)と、空軍システムディレクター(フランク・マース)だった。彼らは、空軍が研究中のリフティングボディ機を急遽4人乗りに改造すれば、救命艇に使用できると主張した。打ち上げには、同じく空軍の「タイタンIIICロケット」を用い、準備作業を徹底して省略することで、酸素が尽きるまでに何とか間に合うと見積もる。しかしキースは、船内の酸素は2日後に尽きるが、このプランには最低3週間と5,000万ドルの予算が掛かるとして、彼らの案に許可を出さなかった。
ミッションコントロールセンターへ車を飛ばしていたキースは、速度超過でハイウェイパトロールに停められてしまう。いくら事情を説明しても、警官たちは聞く耳を持たない。だがそこに警察無線が入る。警官が出ると、ホワイトハウスからの直通であり、キースに話があるということだった。大統領は「救出ミッションを試みなければ、有人宇宙計画に対する国民の支持が失われる」と、必ず救出を実施するように命ずる。
(*1)アポロ宇宙船は有人月着陸計画のために開発されたものだが、宇宙ステーションの「スカイラブ計画」や、ソ連と共同で実施された「アポロ・ソユーズテスト計画」にも用いられている。