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『宇宙からの脱出』精緻な考証に基づいた傑作SFサスペンス(前編)

(c)Photofest / Getty Images

『宇宙からの脱出』精緻な考証に基づいた傑作SFサスペンス(前編)

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あらすじ③



 ミッションコントロールセンターに飛行士の妻たちが呼ばれ、一人ずつ話すように促される。フライトディレクターは、「彼らを興奮させると酸素消費量が増えるので、注意するように」と言い渡す。だが、ただでさえ精神的に不安定だったロイドをさらに刺激してしまい、彼は船内で暴れ始める。プルエットとストーンはロイドを抑え付け、精神安定剤を注射して眠らせた。


 打ち上げ準備はキースの予想を超えて、極めて順調に進む。風速16mの暴風雨が吹き荒れる中、ドハティは搭乗作業を始める。さすがの状況に不安を隠せなくなるが、キースは彼を励ますしかなかった。


 やがてタイタンIIICは秒読みに入る。しかし、最後の60秒前になっても風速24m(*4)から下がらず、ミッションは中止となった。キースは、救助は不可能だと判断し、軌道上の3人に伝える。プルエットは「君たちはよくやってくれた。感謝する。我々がどうなろうと、有人宇宙計画は継続してくれ」というメッセージを送って来た。だがX-RVのドハティは、打ち上げ作業の継続を強く求める。


(*4)日本の台風の場合、平均風速25m毎秒以上の風が吹いている領域を暴風域、15m毎秒以上の風が吹いている領域を強風域と呼んでいる。


ロケとセット、宇宙服など



 ロケは、ケープカナベラル空軍基地とヒューストンで、1968年11月から1969年4月中旬に行われた。当時は、アポロ8号から9号の打ち上げが行われていたころで、その作業の合間に撮影されている。X-RVを搭載したタイタンIIICの打ち上げシーンは、本物の第41番発射台が用いられている。


 カメラが入れなかったミッションコントロールセンターは、美術監督のライル・ウィーラー(*5)による指揮で、MGMの第27ステージにセットが建てられた。精巧なコンソールは、実物も手掛けていたフィルコ=フォード社に依頼している。宇宙船関係のレプリカは、航空機メーカーのノースアメリカン・エイヴィエーション社が手掛けた。


 こういった実際の航空宇宙関係企業の協力を得られたのは、業界に顔が利く二人のテクニカルアドバイザーがいたからだった。一人はケイディンだが、もう一人はかつてノースアメリカン社に所属していたジョージ・F・スミスである。彼は1955年7月7日、F-100Aスーパーセイバーに搭乗し、マッハ1.05で飛行中に墜落事故を起こしながらも、奇跡的に一命を取り留めた伝説のテストパイロットだ。NASA関係者や宇宙飛行士にも知り合いが多く、セリフのリアリティなどのアドバイスもしている。ちなみに彼も、気象予報官として出演している。


 また、飛行士たちが着ている宇宙服も実物そっくりであるが、ヘルメットが赤色(*6)だということに違和感を覚える人もいるだろう。普通は白という印象があるからだ。これに関しては、「Aviation Week & Space Technology」(August 22. 1966)に「月面を探査する最初のアメリカ人宇宙飛行士は、月周回軌道の司令船や互いから容易に識別できるよう、赤いヘルメットを着用する」という記事が載っている。


 ただし実際と大きく異なるのは、太陽光の影響を防ぐサンバイザーの色だ。俳優たちの表情が見えるように、少し暗めにしている程度だが、実物はゴールド・コーディングされており、金色の鏡のようになっている。


(*5)『風と共に去りぬ』(39)や『王様と私』(56)の美術監督も務めていた。

(*6)実際「アポロ9号」では、船外活動を行ったラッセル・シュワイカートと、上半身のみ船外に出たデイヴィッド・スコットの写真で、赤いヘルメットが確認できる。だが、中に熱がこもりやすいという問題があったようで、アポロ10号からは白くなり、表面がベータクロスという白い耐火性シリカ繊維布の断熱カバーで覆われた。その後アポロ14号からは、さらにもう一層ハードシェルが加えられ、識別用に中央に赤いストライプが入るデザインが採用されている。


後編に続く



文:大口孝之(おおぐち たかゆき)

1980年より日本エフェクトセンターのオプチカル合成技師。1982年に日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター。EXPO'90富士通パビリオンのIMAXドーム3D映像『ユニバース2~太陽の響~』のヘッドデザイナーなどを経て、フリーの映像クリエーター。NHKスペシャル『生命・40億年はるかな旅』(94)でエミー賞受賞。VFX、CG、3D映画、アートアニメ、展示映像などを専門とする映像ジャーナリストでもあり、映画雑誌、劇場パンフ、WEBなどに多数寄稿。東京藝大大学院アニメーション専攻、女子美術大学専攻科、日本電子専門学校などで非常勤講師。主要著書として、「3D世紀 -驚異! 立体映画の100年と映像新世紀-」ボーンデジタル、「裸眼3Dグラフィクス」朝倉書店、「コンピュータ・グラフィックスの歴史 3DCGというイマジネーション」フィルムアート社



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