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『カジノ』70〜80年代ラスベガスを舞台にした大人たちの『グッドフェローズ』

(c)Photofest / Getty Images

『カジノ』70〜80年代ラスベガスを舞台にした大人たちの『グッドフェローズ』

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音楽コンサルタント、ロビー・ロバートソン



 スコセッシ映画は音楽の魅力ぬきでは語れないが、この映画ではスコセッシの盟友だったロビー・ロバートソンが音楽コンサルタントをつとめ、50曲以上が登場。人物たちの心理を代弁する。


 車が炎に包まれる冒頭で流れるのは、バッハの「マタイ受難曲」(ゲオルグ・ショルティ指揮シカゴ交響楽団)。「スコセッシ・オン・スコセッシ」の中で、「何か壮大なものがこの世から姿を消したということを表現するためのものだった」とこの曲について語っている。


 それ以後、最初の30分間だけで、なんと16曲が使われる。これは通常の映画ではありえない多さ。それぞれの曲をたどると、全曲を聞かせるのではなく、まるで音のコラージュのように、次々に曲のフレーズが切り取られ、場面によっては1分おきに違う曲が出てくる。


 映画が始まって20分後に初めてジンジャーが登場するが、そこはカジノの場面で、リトル・リチャードの「スリッピン&スライディン」が使われている。そして、エースがジンジャーに目にとめると、急にミッキーとシルヴィアの「ラブ・イズ・ストレンジ」に音が切り替わる。エースがジンジャーにほれ込んだ瞬間が、音と映像によって伝わる構成になっているのだ。こういう小刻みな音の使い方は随所で見られ、まさに音楽の万華鏡。


 スコセッシ自身はジャズのトランペット奏者、ルイ・プリマやザ・ローリング・ストーンズの曲をひとつの軸として考えたそうだが、映画が始まって早々にルイ・プリマの「ズーマ・ズーマ」や「シング・シング・シング」が流れ、ストーンズの場合は「ギミ―・シェルター」、「キャント・ユー・ヒア・ミー・ノッキング」等が登場。彼らの代表曲「サティスファクション」は、ドイツのテクノ系のバンド、DEVOなどのバージョンも使われることで、映画にアクセントが生まれている。


 スコセッシ映画の常連的なサウンドともいえるマディ・ウォーターズ、クリーム(エリック・クラプトン)もしっかり登場。


 また、アニマルズの「朝日のあたる家」はありふれた選曲だが、後半のギャングたちの殺害シーンで流れると、映画にやばい活気が生まれる。音のリズムと映像のテンポが、ぴたりとあっていて、妙に新鮮に聞こえる。


 映画音楽も効果的に登場する。映画『ピクニック』(55)の中のジャズ・ナンバー、「ムーングロウ」は現金を数える部屋の移動場面で流れる。ゴダールの映画『軽蔑』(63)のジョルジュ・ドルリューの曲「カミーユのテーマ」は特に印象的だ。後半何度が使われるが、行きづまった夫婦関係を描いた映画ゆえ、この映画のエースとジンジャーのもつれた夫婦関係とイメージが重なる。「あの哀愁を帯びたメロディが好きだった」と監督は「スコセッシ・オン・スコセッシ」の中で語っている。


 そして、最も重要な曲はホーギー・カーマイケルの名曲「スターダスト」。「それまでこの映画が描いてきた感情や思いを要約できるただひとつの曲」とスコセッシは前述の本で語る。「愛は過去の星くず/今の慰めは星くずのような歌だけ」という歌詞が、エースの過ぎ去った人生への思いを代弁している。


 エースのモデルとなったレフティは「スターダスト」というカジノも経営。そんな含みも持たせた選曲が最後は妙にしみる。まさに「つわものどもは夢のあと」を感じさせる選曲となっている。



文:大森さわこ

映画評論家、ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書に「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウェブ連載を大幅に加筆し、新原稿も多く加えた取材本「ミニシアター再訪 都市と映画の物語 1981-2023」(アルテスパブリッシング)を24年5月に刊行。東京の老舗ミニシアターの40年間の歴史を追った600ページの大作。



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