『カジノ』あらすじ
シカゴ・マフィアからラスベガスに派遣されたサム・“エース”・ロススティーンは、類まれな賭博の才能を認められ、ラスベガスのカジノ「タンジール」のマネージャーに抜擢される。一目惚れしたハスラーのジンジャーと結婚し、順調に仕事もこなしていた彼だが、ボディガードとしてやって来た幼なじみの旧友ニッキーが働く悪行の数々が、カジノ経営にも悪影響を及ぼしていく…。
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『グッドフェローズ』を一歩進めたギャング映画
マーティン・スコセッシが90年に作った『グッドフェローズ』は、日本でも多くのファンを獲得していて、彼の最高傑作の1本と考えられている。その5年後の95年に発表されたのが、同じジャンルの『カジノ』(95)。どちらもノンフィクション作家、ニコラス・ピレッジの原作が基になっていて、実在のギャングの人生が描かれる。
『カジノ』が発表された時、同じ路線の作品ということもあってか、『グッドフェローズ』よりも低い評価を受けていた。筆者自身も、初めて見た時、パワフルな作品ではあるものの、スコセッシのベスト作品の1本には思えなかった。
しかし、ある時再見して、実はすごい作品だったことに気づいた。構成が複雑なので、初めて見た時より、2度目以降のほうが本当の良さが分かる作品ではないだろうか。アメリカでも、公開時よりも評価が上がっていて、何人かの評論家が以前よりも高い評価を与えている。
『グッドフェローズ』はレイ・リオッタ演じるヘンリー・ヒルが若くて、彼がニューヨークのギャングの世界を登りつめていく話だった。一方、『カジノ』の主人公サム・“エース”・ロススティーンは40代という設定で、中年になったロバート・デ・ニーロが主人公を演じる。
青春映画の要素も入っていた『グッドフェローズ』と比較すると、こちらは大人の物語になっている。エースはラスべガスのカジノのマネジャーで、常に冷静な態度を心がけている。『グッドフェローズ』より、抑制の効いた人物像を中心にすえることで、より成熟した内容になっている。
『カジノ』予告
また、『グッドフェローズ』は主人公の妻も出てくるが、あくまでも脇役扱いだった。比べると、『カジノ』はシャロン・ストーン演じる元ハスラーの女性ジンジャーが物語の中心にいることで、屈折した男女の物語としてもスリリングだ。
ロケーションはラスべガスで行われ、実際のカジノであるリビエラとランドマーク・ホテルでロケが敢行されることで映画に華やかな雰囲気がもたらされている。
映画は主人公のエースが車に乗ると、それが爆発して炎に包まれる場面から始まる。「スコセッシ・オン・スコセッシ:私はキャメラの横で死ぬだろう」(新装増補版、デイヴィッド・トンプソン、イアン・クリスティ著、宮本高晴訳)によれば、最初この映画は、エースとジンジャーが家の玄関で夫婦ゲンカを始める場面から始めることも考えたという。「でも、これはあまりに些細な挿話で、話が結末部分、つまり最終局面に至ったとき十分な劇的充足感が得られない。そこでニック(ニコラス・ピレッジ)と相談して、車の爆発から始めることにした」とスコセッシは語っている。
このタイトル場面のデザインを担当しているのは、ヒッチコック作品などで知られる伝説的なデザイナーのソール・バス。宙に舞い上がるエースと燃え上がる炎を合成し、その後デザイン化されたラスべガスのネオンのイメージが挿入される。スコセッシとは5本組んでいて、劇場映画は『カジノ』がバスの遺作となった(96年に他界)。このインパクトのあるタイトルバックで、すぐに映画にひきこまれてしまう。