ロンドンからシカゴへ、原作の舞台を変えても変わらない普遍性
原作は英国の人気作家ニック・ホーンビィが1995年に発表した同名小説。彼の著作は多くが映画化されており、本作のほかにも『ぼくのプレミアライフ』(97)やその米国版リメイク『2番目のキス』、ヒュー・グラント主演の『アバウト・ア・ボーイ』(02)、イーサン・ホーク主演の『 15年後のラブソング』(18)などが知られている。大人になり切れない大人の心情をリアルに切り取っていることがホーンビィ作品の人気の理由だ。
小説「ハイ・フィデリティ」は発刊とほぼ同時にディズニー傘下のタッチストーンピクチャーズに映画化権を買い取られたことでプロジェクトが動き出し、当初は『フォー・ウェディング』(94)のマイク・ニューウェルが監督として予定されていた。その後、原作を読んで惚れ込んだキューザックがこの企画に興味を示したことで方向性が固まり始める。小説の舞台はロンドンだが、そこにはどの場所にも共通する普遍的な人間ドラマがあった。
『ハイ・フィデリティ』(c)Photofest / Getty Images
大人になり切れない大人である(?)キューザックは、これが自身の本拠地であるアメリカ、シカゴに舞台を置き換えても成立すると確信。シカゴでともに育った製作のパートナーで音楽愛好家仲間でもあるD.V.デヴィンセンティス、スティーヴ・ピンクとともに脚本の執筆にとりかかる。シカゴに舞台を置き換えた利点は、レコードショップやバー、クラブなど、舞台となる場所に彼らの土地勘があり、脚本に生々しい生活感が宿ったこと。また、地元中古レコードショップに並んでいるレコードは、すべて彼らのこだわりレコードコレクションから選ばれたというから、彼らにしてもロブに共感する部分は少なからずあったのだろう。
新たに監督に抜擢された英国人のスティーヴン・フリアーズはオファーを受けたとき、不安になったという。いかにもイギリス的な小説をアメリカで撮れるのだろうか? しかし、それは杞憂だった。脚本には原作にある音楽オタクの会話の妙を生かしながら、リアリティのあるドラマがしっかりと紡がれている。逆にアメリカを舞台にしたことで、ユーモアはより楽天的になり、ロマンチックなムードも高まっている。映画の題材としては、うってつけだったのだ。