あの大物アーティストもカメオ出演! やはり魅力的な音楽
そんな具合だから、ロブの物語の本筋である、過去の恋人の訪ね歩きもうまくことが運ぶとは言い難い。失恋の理由を尋ねると、“私がじゃなくて、あなたがフッたんでしょ!”とキレる元カノもいる。肝心のローラは新しい恋人ができたようで、その男と寝ていることを妄想しては勝手に落ち込んだりもする。ロブの失恋のこじらせ具合の描写は、テンポのよいセリフも効果もありユーモラスだが、時にヒリヒリし、時に身につまされもする。
そんな彼が物語を通して緩やかに変わっていくのがいい。ローラをとりまく環境が変わりだし、また同類と思っていたバリーやディックでさえ、ちょっとだけだが変わっていく。そう、ローラの言う通り、人間は変化する生き物だ。いつかはぬるま湯から出る決断を迫られる。ロブの変化は、ぜひ本編を見て確認してほしい。
『ハイ・フィデリティ』(c)Photofest / Getty Images
最後にもうひとつの大事な要素、音楽について触れておきたい。ロブと仲間たちが好みそうなロックナンバーがズラリと並んでおり、それが物語と分かちがたく結びついているのも魅力。たとえば冒頭、去っていくローラをヨソに、ヘッドホンでロブが聴いている13thフロア・エレベーターズの「ユー・アー・ゴナ・ミス・ミー」は、ロブの強がりを代弁しているかのようだ。また、セリフの中にもグリーン・デイに関するジョークのほか、音楽ファンをニヤリとさせる要素が多い。ロブに“啓示”をあたえる幻想の存在として、ブルース・スプリングスティーンがカメオ出演している点も見どころだ。
そしてビンテージのアーティストポスターが貼られたロブのレコードショップのたたずまいも、音楽好きとしてはたまらないものがある。今でこそレコードの売り上げは世界的に右肩上がりで伸びているが、この映画がつくられた2000年はビジネスとしては絶滅危惧種に近かった。今もロブが、あの中古レコード店を営業しているなら、どんな店になっているのだろうか?
文: 相馬学
情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。
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