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自分の“ダメ”を描き愛された映画
世界的な大ヒットを飛ばしたわけではないし、大きな映画賞を受賞してもいない、印象の地味な作品の中にも愛すべき秀作があるのは、映画ファンの常識。観ている人、知っている人が少なくても、観た人の多くが熱烈に入れ込んでしまう作品もある。ユーモラスなヒューマンドラマ『ハイ・フィデリティ』(00)は、まさにそんな映画だ。
『シン・レッド・ライン』(98)『アイデンティティー』(03)『2012』(09)などでおなじみのジョン・キーザックが共同製作と脚本、主演を兼任。『グリフターズ/詐欺師たち』(90)『クィーン』(06)で米アカデミー賞のノミネート歴がある名匠スティーブン・フリアーズが演出を担当。後に『スクール・オブ・ロック』(03)等でコメディ俳優として大ブレイクするジャック・ブラックの出世作でもある。
『ハイ・フィデリティ』予告
ざっと物語を紹介しよう。シカゴで中古レコードショップを経営する音楽オタクの30代男性ロブは、同棲中の恋人ローラが突然去ったことにショックを受ける。自分の何が良くなかったのか、まったく理由がわからない。悶々としたあげく、過去に失恋した相手トップ5をリストアップし、それぞれを訪ね歩き、その理由を探ろうとする……。
このあらすじだけで、ある程度想像できると思うが、主人公のロブはダメ男だ。相手のことを考えているようでいて、結局は自分のことしか考えていない。でも、ちょっと待った! それは私にもあなたにも、少なからず共通していることでは? 他人の“ダメ”はよく見えるが、自分の“ダメ”は見えにくいものだ。その“ダメ”をリアルに描いているからこそ、本作は愛される映画となりえた。本稿では、そんな『ハイ・フィデリティ』の魅力を解説していく。