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『ハイ・フィデリティ』恋愛下手のための愛すべき逸品

(c)Photofest / Getty Images

『ハイ・フィデリティ』恋愛下手のための愛すべき逸品

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人間は変わるもの、しかし変われないぬるま湯状態



 映画『ハイ・フィデリティ』の魅力について、改めて紹介していこう。物語はロブがカメラに向かって語りかける、独特のスタイルで進行する。当初の脚本では、ロブのナレーションがフィーチャーされていた。しかし、直接カメラに向かって話す方が面白いんじゃないか? そんなアイデアが採用され、ロブを演じるキューザックの人なつっこい個性がみごとに生きた。オタクなダメ男だが憎めないのは、このつくりによる効果といえるだろう。


 オタクの周りにはオタクが集まる。ロブが経営するレコードショップの店員バリーとディックもまた音楽にはうるさい。彼らが集まれば、“スティーヴィー・ワンダーの駄曲トップ5”などの音楽談義が始まる。バリーは我が強く、ディックは気弱と、対照的な性格だが、ふたりとも週3日勤務で雇われたのに、頼まれもしないのに毎日のように通っている……という設定が面白い。お店は彼らにとって楽しい場だが、見方を変えればぬるま湯ととれなくもない。



『ハイ・フィデリティ』(c)Photofest / Getty Images


 しかし、ぬるま湯状態がもっとも深刻なのは、やはりロブだ。“人生は変わるものだけど、あなたはそれを許さない”とはローラの弁。レコードショップの経営は楽ではないし、金もなければ車もない。夢を追っているわけでもないし、自信が持てることといえば音楽の趣味の良さくらい。それを役立てようにも、ダサい客を見下して追い払うのが関の山。常連客にも“自分より知識のない連中をコケにする、悪いエリート主義だ”と指摘される始末。オタク的なプライドの高さが、変わること、すなわち人としての成長を妨げているともいえる。





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