2025.03.25
『BETTER MAN/ベター・マン』あらすじ
イギリスで生まれたロビー・ウィリアムスは、1990年代初頭にボーイズ・バンド、“テイク・ザット”のメンバーに選ばれ、チャートトップを連発するポップスターになる。しかし、その一方で10代にして世界的なスターダムにのし上がったことによる不安とあくなき夢を追い求める中で、愛されると同時に常に他人の目に晒される辛さに苦悩する。仲間や大切な人との出会いと別れ、そして人生の絶頂とどん底を経験した、彼が選んだ人生とは——。
Index
スポットライトだけではない、人生を導く光
その人生を救うのは、もしかして「光」だったのか……。カリスマ的な人気を誇りつつ、波瀾万丈な半生をたどったミュージシャンのロビー・ウィリアムスが、何度か光に導かれ、夢を掴み、過酷な運命をサバイブできたことを、映画『BETTER MAN/ベター・マン』(24)は示唆している。「光に導かれ」などと書くと、ちょっと宗教めいたイメージだが、そういうことではない。ストーリーの中でも、そして映画的な演出でも、本作は光が重要な役割を果たしているのだ。
イギリスのソロ・アーティストとして、同国で最多セールスの記録を誇るロビー・ウィリアムスだが、一方で“悪童”というレッテルを貼られるほど奔放な言動が絶えなかった。そのロビー(本名はロバート)が少年時代、啓示となった瞬間が本作の冒頭で描かれる。
12歳のロバートは、友人たちから何かとバカにされるポジションに甘んじていだが、フランク・シナトラら一流のエンタテイナーに憧れ、そこに将来“なりたい自分”を重ねる。しかし父の忠告は非情だ。人間には「生まれつきの才能を持った者」か「能なし(Nobody)」のどちらかだという。もちろんロバートは後者であると、父は決めつけている。そんなロバートに、祖母の一言が希望を与える。浴室で落ち込む彼の顔に、壁の鏡が光を反射するのを示し、「お前には何か(It)がある」と祖母は説くのだ。この「光」が映画全体を通し、ロバート=ロビーのエンターテイナー人生の道標のように使われることになる。
『BETTER MAN/ベター・マン』©2024 PARAMOUNT PICTURES. All rights reserved.
学校での演劇パフォーマンスの際、舞台上で転倒してしまったロバートだが、咄嗟の判断で観客を面白がらせ、最後はステージの真ん中でスポットライトに照らされる。一方で父の仕事(クラブのショーでの司会)を手伝った時は、ステージにスポットライトを当てるのだが、うまくライトを動かせない。つまりロバートは「光が当たる」側の人間だと示される。
また、テイク・ザットのメンバー、ロビー・ウィリアムスとして大人気を得た後、自身の言動もあってキャリアのピンチに陥ってしまうシークエンスでは、走行する車のライト、幻想的なカットで水中から見上げるカメラのフラッシュ、その後の花火……と、さまざまな光源が、ロビーの置かれた状況を代弁する。
復活をかけた曲作りのシーンなども、最初は逆光で影のような存在で映されたロビーが、その成功への確信を光の温かさの変化で表現する。極め付けは、ロビーの人生そのものを左右する瞬間、太陽の光を受け止めたことで彼が自身の運命を決定するシーンだろう。ロビー・ウィリアムス自身が全面協力して作られたとはいえ、このシーンはやや“作りもの”っぽく感じられるのだが、それはそれで映画的であり、映画全体に貫かれる、救いの光を象徴している。