
© 1987 Excelsior Film-TV. © 2010 Cristina D’Osualdo. All rights reserved.
『黒い瞳 4K修復ロングバージョン』大人のための、そして、大人になるための映画
25分の追加シーン
アテネ経由でイタリアに向かう客船が物語の出発点である。ロシアからイタリアへと向かう紳士は、営業時間前、船内の食堂の片隅に一人で座っている初老の男性ロマーノ(マルチェロ・マストロヤンニ)と出会い、テーブルに招かれる。紳士がロシア出身だと知るとロマーノは喜び、感慨深げに自分の人生を語り始めるのだった。
物語の大部分は、ロマーノの回想である。いまよりも若かった頃のロマーノは、大銀行家の娘エリザ(シルヴァーナ・マンガーノ)を妻にして、広い屋敷で何不自由ない日々を過ごしていた。しかし、夫婦関係は冷めきっている。癒しを求めて温泉保養地に一人出かけた彼は、そこで子犬を連れた人妻アンナ(エレナ・サフォーノヴァ)と出会う。ロシアから来た純情な彼女に惹かれたロマーノは、情熱的に彼女にアプローチを続け親密な関係となっていく。俗っぽく言えば、いわゆる「ダブル不倫」である。
『黒い瞳 4K修復ロングバージョン』© 1987 Excelsior Film-TV. © 2010 Cristina D’Osualdo. All rights reserved.
しかし、貧しい家のために裕福な夫と結婚したアンナは、自分がこれまで自分の感情を裏切っていたことを悟りながら、義務感と罪悪感にさいなまれ、故郷へと帰ってしまう。残されたロマーノは彼女が忘れられず、広大なロシアの大地を彷徨うのだ。
本邦初公開となる「ロングバージョン」は、過去の公開バージョンに25分のシーンが追加され、より豊かに細部が語られていく。とくにロマーノの娘クラウディア役を演じる、若き日のイザベラ・ロッセリーニの出演シーンが加えられているのが嬉しい。そして、結末部に印象的な展開も挿入された。この追加は、観客の解釈によっては作品全体の意味が変質するかもしれない可能性すら秘めている。