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『28年後...』コロナ禍やブレグジットの模倣を超えて イメージを拡張する寓話

『28年後...』コロナ禍やブレグジットの模倣を超えて イメージを拡張する寓話

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極限下の少年映画



 『28日後...』シリーズの新作を、ダニー・ボイルとアレックス・ガーランドが再び手がけると聞いたときは、まさかこれほどナイーブでひりひりとする“少年映画”になるとは想像していなかった。


 なぜなら『28日後...』は2001年のアメリカ同時多発テロやSARSなどの影響が反映されていると評されたほど当時としてはタイムリーな一作であり、ガーランドは近作『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(24)でも、『28日後...』を思い出させる作劇のもと、人々の分断や戦時下のジャーナリズムをリアリティたっぷりに描いていたのである。


 実際には、『28日後...』が同時代の出来事とリンクしたことはまったくの偶然だった。アメリカ同時多発テロが起こったのは、ボイルらが映画の撮影を始めたあとだったのだ。



『28年後...』


 それでも今回、ボイルとガーランドは現実の出来事を踏まえて『28年後...』を着想している。インスピレーションの源となったのは、2020年に発生した新型コロナウイルス禍と、時をほぼ同じくしたイギリスのEU離脱(ブレグジット)。ボイルにとってブレグジットは、「絶対に取り入れたかった2つ」のうちのひとつだったという(もうひとつは「テレタビーズ」)。


 本作はきわめて巧みなバランス感覚で同時代的な要素を扱っている。レイジウイルスを使ってコロナ禍を直接的に表現することはせず、“ウイルスは変異して生き延びる”という、今では世界中の人々がよく知る前提を設定に活かした。ブレグジットも現実的な国際社会や政治の問題というよりも、むしろ世界から孤立したコミュニティのシミュレーションとして作用している。


 「政治的な映画を作る気はなかった。ただ、切実な物語を語りたかったのです」とボイルは言っている。クリエイターが常に真実を語ってくれるとは限らないが、ボイルの証言はある程度正しいだろう。作り手の想像力が時代を射抜いたのが『28日後...』だったのだから、その続編が現実世界に迎合することでイマジネーションを乏しくする必要はない。


 こうして出来上がったのが、感染症禍のため長年孤立した島で生まれ育った少年の冒険譚だ。スパイクにとってレイジウイルスと感染者の恐怖は当たり前に存在するものだが、その危険性に接する機会はなかった。恐ろしい旅を通じて、スパイクは新しい世界を知る。知るよしもなかった父親の一面と、自分自身の思わぬ変化も。




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