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『28年後...』コロナ禍やブレグジットの模倣を超えて イメージを拡張する寓話

『28年後...』コロナ禍やブレグジットの模倣を超えて イメージを拡張する寓話

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アクションから死のドラマへ



 『28年後...』の真に巧みなところは、これだけ現実社会を連想できるモチーフを投入しながら、決して現実に接近しすぎることなく、あくまでも少年を主人公とした寓話であることを貫いた点だ。


 テクノロジーのない世界、大自然と怪物、戦士の父と病弱な母。リアリティに支えられたファンタジックな世界観と、ミニマムな家族のドラマが、あらゆるモチーフがはらむ想像力を拡張する。


 ボイルは本作の同時代性について、このようにも語っていた。


「映画は作るのに時間がかかります。皆さんは世界中のあらゆるディテールや、その時々の経験に注目するかもしれませんが、それらは6ヶ月や1年で変わってしまうもの。もちろん映画を通して、あるいは映画の中に、皆さんはいろいろなものを見ることができます。ガザや移民問題、コロナ禍、イギリスの政治的課題、島の孤立……。ホラー映画の喜びのひとつは解釈の柔軟性です。別の世界につながりながら、しかし閉じてもいる」


 映画前半は『28日後...』の方向性をより洗練したサバイバル・アクション。ドローンや最大20台ものiPhoneを駆使した撮影と編集は、現代ゾンビ作品の最高峰である「THE LAST OF US」以降の表現を模索したよう。ダイナミックで残酷、ときにはゲーム的な表現で、いまだ体験したことのなかった映像を時折見せてくれる。



『28年後...』


 しかし中盤以降、映画は進路をやや変化させ、スパイクの成長譚としての側面をきりりと際立たせる。父とともに命からがらホリー島に戻ったスパイクには、すでに以前と異なる世界の見方が芽生えはじめていた。母アイラを治療できるかもしれない医師ケルソン(レイフ・ファインズ)が本土にいることを知った彼は、もはやその事実を伏せていた父たちを信頼できない。


 母親を救うため、スパイクは感染者との対峙を覚悟で本土に渡る。それは命がけの戦いであり、同時に父親超えという、もうひとつの“男の戦い”でもあった。そこでスパイクは、人生で触れたことのなかった“死”そのものに接近する。思えば少年の危機や成長を描くことは、代表作『スラムドッグ$ミリオネア』(08)にとどまらず監督ダニー・ボイルの得意分野だったではないか。


 そして、コロナ禍の影響がもっとも強く反映されているのは、理不尽に振りかかる“死”をどう見つめるか、いかに死者を葬り弔うかという生死と道徳の問題が立ちあがる瞬間だ。そのキーパーソンがケルソンという医師=エッセンシャルワーカーであること、しかし彼がホリー島の誰からも信頼されていないことに、ポストコロナの社会に対する視線がある。


 かくして、『28年後...』3部作は幕を開けた。ボイル&ガーランドによる新しい物語は、続編『28 Years Later: The Bone Temple(原題)』(2026年1月に米公開予定)につながるが、本作で解決しなかったテーマやストーリーはどのように展開するのか。いよいよ登場するという、『28日後...』主演俳優キリアン・マーフィーの役割やいかに。


[参考資料]

https://www.vanityfair.com/hollywood/story/danny-boyle-28-years-later

https://www.youtube.com/watch?v=yZB59piYHgo



文:稲垣貴俊

ライター/編集者。主に海外作品を中心に、映画評論・コラム・インタビューなどを幅広く執筆するほか、ウェブメディアの編集者としても活動。映画パンフレット・雑誌・書籍・ウェブ媒体などに寄稿多数。国内舞台作品のリサーチやコンサルティングも務める。




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『28年後...』

大ヒット上映中

配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

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