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『28年後...』コロナ禍やブレグジットの模倣を超えて イメージを拡張する寓話

『28年後...』コロナ禍やブレグジットの模倣を超えて イメージを拡張する寓話

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「男らしさ」と戦争の構造



 本編には、予告編で使用されたラドヤード・キプリングの詩「ブーツ(Boots)」の朗読が印象的に使用されている。1903年に発表されたこの詩は、第二次ボーア戦争(※)に従軍したイギリス陸軍兵士の内面を描いたもので、ひたすらアフリカの地を歩き続ける様子や、「目の前のものを見るな、男たちよ、見たら気が狂ってしまう」「何か違うことを考えろ」「銃弾の数を数えろ」「戦場に休息はない」といったフレーズの数々が含まれている。


(※1899年~1902年、イギリスが南アフリカの領土や権利を求めてオランダ系入植者であるボーア人と戦った植民地戦争)


 劇中で「ブーツ」の朗読が流れるのは、まさしくスパイクと父ジェイミーが初めて本土に向かう場面だ。父から「戻らなくても救助はない、自力で生き抜け」と言い渡され、確実に感染者を殺すように命じられ、スパイクは感染者だらけの本土に向かう。



『28年後...』


 姿を見たことのない相手を殺せと伝えられ、自ら敵地へ赴く――ボイルとガーランドは、イギリスが経験してきた“戦争”と兵士たちのイメージをここに重ねた。命がけで本土に向かう父親の“男らしさ”や、ホリー島の保守的かつ閉鎖的なコミュニティ、帰還後に語られる英雄譚などには、侵略や征服の影がべったりと張りついている。


 そしてこれらは、ボイル&ガーランドが過去にも取り扱ってきたモチーフの発展型だ。ガーランドの小説をボイルが映画化した『ザ・ビーチ』(00)や、男性性の恐ろしさと割り切れない複雑さを重層的に描いたガーランドの監督作『MEN 同じ顔の男たち』(22)では、コミュニティや個人の客観性が失われ、だからこそ悲劇や恐怖が生まれることが描かれた。


 漫画やアニメに詳しい観客ならば、一連の展開から「進撃の巨人」を思い出すかもしれない。これは興味深い符合であり、題材やモチーフには重なるところが多いものの、苛烈な戦争漫画となっていった「進撃の巨人」に対し、本作はより内面的なテーマに接近していく。




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