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コッポラが描く女性の映画
フランシス・フォード・コッポラ(以下、コッポラ)は男性を主役に描くことが多い。『ゴッドファーザー』シリーズ(72~90)や『地獄の黙示録』(79)などがその代表的な作品だが、そんな中、女性を主人公にした数少ない作品の1本が、『ペギー・スーの結婚』(86)。この映画の主人公は中年主婦のペギー・スー。高校時代は魅力的に思えたチャーリーと結婚し、ふたりの娘も授かるが、夫は別の軽そうなノリの女性と浮気。彼女の結婚は崩壊しかけている。気を取り直して、高校時代の25年目の同窓会に行くが、気を失って倒れたら、なんと高校時代の自分に戻っていた。
過去へのタイムスリップの設定は、一瞬、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)を思わせるが、そちらは両親が高校生だった時代に戻った主人公(マイケル・J・フォックス)の物語で、そこで彼は両親と青春を共にする。しかし、『ペギー・スーの結婚』の主人公は中年女性でタイムスリップによって、自分自身の人生を見つめ直す。あの結婚は正解だったのか…? これからの人生をどう生きるべきか? そんな思いをかかえ、過去の旅を続ける。
『ペギー・スーの結婚』(c)Photofest / Getty Images
ヒロインに扮しているのはキャスリーン・ターナー。周囲の俳優たちと比べると、彼女だけが大人びて見える。昔見た時はそこに違和感を抱いたが、改めて見ると別の狙いがあることに気づいた。これは中年女性が高校時代に戻っていて、周囲は彼女を高校生として見ているという設定。彼女は表面的には無邪気な高校生としてふるまうが、本当は大人の痛みも知った中年女性。40代の自分と10代の自分を行きかう。そこがこの映画のおもしろさになっていたのだ。80年代は絶頂期だったターナーの好演が光り、彼女はこの映画でアカデミー主演女優賞の候補になっている。
夫のチャーリーを演じているのが、コッポラ監督の甥、ニコラス・ケイジ。キャリアが初期の頃の作品で、貫禄のあるターナーと比べると、どこか頼りない印象もあるが、軽くて気まぐれながらも純粋なところもある。そんな人物像にはあっている。わざと少し高めの奇妙な声を出してつけ歯を入れ、この役のユーモラスな側面を見せている。
いま見直すと、その後『恋愛小説家』(97)でオスカー女優となるヘレン・ハントがターナーの娘を演じていたことがわかる。また、コッポラの『タッカー』(88)にも出ていたジョアン・アレンも、ヒロインの取り巻きのひとり。彼女は後に『ニクソン』(95)、『クルーシブル』(96)、『ザ・コンテンダー』(00)でオスカーの候補になった演技派。また、コメディアンのジム・キャリーもチャーリーの友人役。ニコラス・ケイジも含め、後に才能が開花する俳優たちが出演している点も、この映画の隠れた魅力となっている。