ILMのチームが手がけたリアリティ溢れる体内世界
とはいえ、どれだけ80年代にはコメディ要素が不可欠だったにせよ、やはり本作の真価は、もう一つの魅力=ILMが手がけた特殊効果を抜きにして語れないだろう。なにしろ『スターウォーズ』を始め数々の映像革命を巻き起こしてきた彼らが、この『インナースペース』では人間の体内に広がる“もう一つの宇宙”の視覚化に挑んだのである。この難題に対し、デニス・ミューレン率いるクリエイティブ・チームは創意工夫を凝らして、まるで胃カメラを飲み込んで撮影したかのようなリアルな体内世界を創出。結果的にアカデミー賞の視覚効果賞を受賞するほどの大絶賛と高評価を勝ち取った。
その踏み台となったのはやはり『ミクロの決死圏』。ダンテ監督やミューレンをはじめとするスタッフたちは、20年前のこのSF映画の金字塔をじっくりと鑑賞するところから作業をスタートさせたという。その上で、いきなり「原点超え」を目指すとチーム全体に余計なプレッシャーを与えてしまうので、まずは自分たちのできること、できないことをしっかりと見極めた上で、本作の可能性を切り開いていくことにした。
『インナースペース』© Photofest / Getty Images
そういった中で、『ミクロの決死圏』のように明度の高い美しく幻想的な雰囲気とはまたガラリと異なる方向性が打ち出されていった。そこではUCLAの医学生をアドバイザーに招いてグロテスクに陥らない程度のリアリティを追求。さらに自らもポッドに乗り込んで探検しているかのような臨場感が味わえるよう、あえて映像にあえてラフさを残すことも志向されたという。
今のようにCG全盛ではない当時、美術チームと特殊効果チームはお互いに連携をとりながら、手作業で試行錯誤を繰り返していった。例えば、ゼリーを凍らせた状態のものを脂肪細胞のように見せたり、特殊なゴム製品をはじめ様々な素材を用いて臓器内部の模型を作り、そこをポッドが進行していく様子をモーション・コントロール・カメラで撮影したりもした。
また、血管内をおびただしい数の血小板が流れゆく場面では、巨大なホースの中に水を流し、その中に赤く塗った豆やゴマを流すことでその様子を克明に表現したという。まさに発明と発見の連続。この小さな宇宙を成立させるべく、ひとつひとつの場面に創意工夫と情熱が惜しみなく注がれたのである。