誰もが知るあの画像編集ソフトの開発者も参加!?
ここで余談だが、本作に参加したスタッフの中に「ジョン・ノール」という人物がいたのをご存知だろうか。当時まだ無名の彼は、モーション・コントロール・カメラを使って模型を1コマずつ撮影していく作業を担当。そのクオリティの高さは今見ても驚かされるばかりなのだが、このノールという男、のちに2つの大成長を遂げてILM出身者の中でも最大級の有名人と化すこととなる。1つはこの特殊効果の道で研鑽を積み、やがては『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』でアカデミー賞の特殊効果部門のオスカーを受賞するなど、この業界の第一人者にまで上り詰めたこと。
そしてもう1つは、さらにスケールがでかい。なんとノールは、『インナースペース』からおよそ2年後、今や世界中で広く知られている画像編集ソフト「フォトショップ」を開発したのだという。当時からコンピューターの扱いに圧倒的に秀でていたという彼。やがて訪れる視覚効果技術の激変期において、80年代のアナログな伝統も知り、なおかつデジタルにも強い、ノールのような人材が果たした「橋渡し」的な役割は相当大きかったはずだ。
なるほど、視覚効果の歴史を紐解くと、2年後に公開されたジェームス・キャメロン監督作『アビス』の時点でデニス・ミューレンやジョン・ノールたちはすっかりCGI技術を使った領域へと移行している。後年、ジョー・ダンテ監督が「時代が違えば、『インナースペース』の作り方も全く別のものになっていたはず」と語ったように、もはやこの映画は、80年代後半のあの時期、あの地点だからこそ生まれ得た、古き良き時代の最後の打ち上げ花火でもあったことが伺える。そのあたりのノスタルジーも含めて、今この時代に、再度じっくりと味わってみたい作品である。
ちなみに、アカデミー賞から縁遠いジョー・ダンテの監督作がオスカーに輝いたのは、これまでのキャリア中これ一本のみ。それも彼の采配が評価されたわけではなく、デニス・ミューレン率いる視覚効果チームが受賞しているわけなので、ダンテとしては少々複雑な気持ちであったことだろう。
『インナースペース』© Photofest / Getty Images
他にもこの映画がきっかけでデニス・クエイドとメグ・ライアンが結婚したり、マーティン・ショートがコメディ俳優として一気にブレイクを果たすなど、なんだかダンテを差し置いて周囲の人々ばかりがどんどんハッピーになっていった感も強い。でもそういったダンテの、夜空でひっそりと輝く月のような存在感もまた、人々に愛され続けてやまない理由。かつてのような大ヒット作には恵まれなくとも、71歳になった今なおTVドラマや映画を絶え間なく撮り続けている彼は、やはりレジェンドの名にふさわしい人物なのである。
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
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