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  4. 『シャイニング』複数バージョンの比較で浮かび上がる、ホテルの呪いの正体 ※注!ネタバレ含みます。
『シャイニング』複数バージョンの比較で浮かび上がる、ホテルの呪いの正体 ※注!ネタバレ含みます。

『シャイニング』複数バージョンの比較で浮かび上がる、ホテルの呪いの正体 ※注!ネタバレ含みます。


ジャックの台詞「白人の呪い」をめぐって



 映画におけるインディアンの要素に関して、興味深い台詞がある。舞踏室のカウンターバーでバーテンダーのロイドからウイスキーを注いでもらったジャックは、「酒は白人の呪いだ。インディアンは知らん」と言う(Blu-ray版の高瀬鎮夫氏による日本語字幕)。しかし元の英語の台詞は、「White man's burden, Lloyd my man. White man's burden(白人の責務だ、ロイド。白人の責務)」となっている。英語の台詞には「呪い」も「インディアン」もない。なぜこのような字幕になったのか。


 実は、『 ジャングル・ブック』の著者として知られるラドヤード・キップリングが19世紀末の米比戦争について書いた詩『The White Man's Burden: The United States and the Philippine Islands』(1899)が、ジャックの台詞の下敷きになっている。英語圏では有名なキップリングの詩は、未開の地の蛮族を征服し啓蒙することが「白人の責務」だとし、欧米の白人国家による帝国主義と植民地政策を賛美・称揚するものと考えられた。




 元教師で作家のジャックはこの詩にかけて、飲酒は(高尚な)白人の責務なのだと言い訳したのだろう。ただし、文字数が限られる字幕ではキップリングの詩に言及できるはずもなく、直訳の「白人の責務」では唐突に聞こえる。そこで、禁酒の誓いを破るジャックが責任転嫁する心情をわかりやすく伝える表現として、「酒は白人の呪いだ」という意訳になったのではないか。俺が悪いんじゃない、呪いのせいだから仕方ない、というわけだ。それと対比させる目的で、飲酒習慣のないインディアンを引っ張り出し、酒の楽しさも禁酒の苦しさも「インディアンは知らん」と字幕で補足したのだと推測できる。


 ともすれば酒飲みのたわごととして聞き流しそうになる台詞だ。しかし、映画でホテルの立地や内装にインディアンの要素が強調された点を考え合わせると、キップリングの詩への言及と、意訳された字幕の「白人の呪い」というキーワードは、キューブリックが原作からの改変によって仕込んだ秘密の核心に迫る重要なポイントと言えよう。



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