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  4. 『シャイニング』複数バージョンの比較で浮かび上がる、ホテルの呪いの正体 ※注!ネタバレ含みます。
『シャイニング』複数バージョンの比較で浮かび上がる、ホテルの呪いの正体 ※注!ネタバレ含みます。

『シャイニング』複数バージョンの比較で浮かび上がる、ホテルの呪いの正体 ※注!ネタバレ含みます。


「輪廻」をさりげなく示唆したキューブリックの意図



  前回記事で紹介したように、キューブリックは「最後の大広間の写真は、ジャックの生まれ変わりを暗示している」と語った(※参考文献2)。そこからさかのぼって映画を振り返ると、劇中には輪廻を示唆する状況証拠がいくつもある。誰もいないはずのカウンター内に突然バーテンダーが現れたとき、ジャックは「やあロイド」と挨拶し、ロイドも「トランス様(Mr. Torrance)」と応える。自己紹介もしていないのに、なぜか互いの名前を知っている。


 別の場面で、ジャックの上着にドリンクをこぼしてしまった老ウエイターはデルバート・グレイディと名乗る。ジャックはその顔を新聞記事の写真で見て覚えていた。その記事は、支配人から採用面接の時に聞いた、前任の管理人チャールズ・グレイディが妻と娘2人を惨殺して自殺した事件を報じたものだ。ジャックはグレイディが以前管理人だったことと事件のことを告げると、彼はまったく記憶にないと答え、「管理人はずっとあなたです」と言う。その直後から、グレイディはジャックを「トランス様」と名字で呼ぶ(ここでもまた、ジャックは名乗っていない)。


 さらに示唆的な台詞が、国際版で削除されたあるシーンで語られる。ウェンディが部屋に食事を運んだあとの会話で、ジャックは「面接に来たときから、前にここで過ごしたような気がしていた。デジャヴュ(既視感)の瞬間は誰にでもあるが、これはまるで違う。隅々までどこに何があるかを覚えている感じだ」と話す。




 これらを総合すると、ジャックもグレイディも生まれ変わってから再びオーバールック・ホテルに誘い込まれ、事件を起こしたと考えるのが自然だろう。デルバート・グレイディの生まれ変わりがチャールズ・グレイディであり、デルバートがチャールズの記憶を持たないのは当然だ。それに、グレイディもロイドもジャックを見て「トランス様」と呼んだことを思い出そう。2人が記憶しているのは、大広間の1921年の写真に写っていたジャックの前世の人物であり、そのファーストネームはジャックではないのかもしれない。


 映画『シャイニング』において、オーバールック・ホテルをめぐる人々の輪廻と惨殺事件をもたらすものの正体は、先住民インディアンの土地を奪い彼らを虐殺した白人にかけられた呪いである――という考察は、早いものでは1987年の ワシントン・ポスト記事ですでに紹介されていた。インディアンの多くの部族にも輪廻の思想がある(※注2)ことを、キューブリックが元々知っていたか、あるいは脚本執筆に向けたリサーチの段階で気づいたかは定かではないものの、少なくともそう解釈することが可能な台詞をちりばめ、ホテル内部の美術にはインディアンの意匠を配していった。


 「インディアンの呪い」説に立つなら、エンディングの舞踏会の写真に記された7月4日という日付にも裏の意味が加わる。それまでイギリスに統治されていた北米13の植民地が独立を宣言した1776年7月4日は、先住民から土地を奪って住み着いた白人たちのアメリカが建国された日であると同時に、インディアンへの収奪と虐殺に対する是認が確定した日でもあった。白人にとって祝日の7月4日は、インディアンにとっては恨みの日なのだ。インディアンの呪いによってホテルに縛りつけられたパーティー客の霊が、独立記念日を祝う舞踏会で永遠に踊り続ける……なんとも皮肉ではないか。


 念のため繰り返すが、「インディアンの呪い」はそう解釈することが可能なひとつの考察に過ぎない。しかし、呪いの正体を明確にせず示唆する程度にとどめたのも、キューブリックの戦略だったはずだ。さまざまに解釈できる余地を残したからこそ、観客は探求心を刺激され、繰り返し映画に向き合って真相を知ろうとする。さらにアメリカ白人の場合は、オーバールック・ホテルにちりばめられたインディアンの意匠から自らの先祖の業(ごう)をほとんど無意識下で感じ取り、延々と生まれ変わって報いを受けるという概念に一層恐怖するのではないだろうか。



【注2……たとえば、スー族に属するラコタ族には「赤い道・黒い道」という思想がある。すべてのものと調和して生きる「赤い道」を歩んだ者は死後、宇宙の中心に帰ることができる。反対に、貪欲で自分勝手に生きる「黒い道」を歩んだ者は死後、霊魂が地上に落とされ、再び生まれ変わるという。※参考文献3】



【参考文献】

1. 『 映画監督スタンリー・キューブリック』 ヴィンセント・ロブロット著 浜野保樹・桜井英里子訳 晶文社

2. 『 Kubrick(キューブリック)』 ミシェル・シマン著 内山一樹監訳 白夜書房

3. 『 我らみな同胞―インディアン宗教の深層世界』 A・C・ロス著 スーザン・小山訳 三一書房




文: 高森郁哉(たかもり いくや)

フリーランスのライター、英日翻訳者。主にウェブ媒体で映画評やコラムの寄稿、ニュース記事の翻訳を行う。訳書に『「スター・ウォーズ」を科学する―徹底検証! フォースの正体から銀河間旅行まで』(マーク・ブレイク&ジョン・チェイス著、化学同人刊)ほか。



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『シャイニング』

ブルーレイ ¥2,381+税/DVD特別版 コンチネンタル・バージョン ¥1,429 +税

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