
©2024 The Apartment Srl - Numero 10 Srl - Pathé Films - Piperfilm Srl
『パルテノペ ナポリの宝石』パオロ・ソレンティーノがフェリーニ印を散りばめ描いた、ナポリという街
2025.08.26
ナポリの申し子=パルテノペ
主人公が生まれる家の撮影は、提督のモデルとなったという実在の人物で、ナポリ市長を務めたアキッレ・ラウロの邸宅「ヴィラ・ラウロ」を利用している。城砦のような外観のヴィラに突き出た、ウォーターフロントのバルコニーからは、ナポリ湾と港町を一望できる。そんなナポリの海を産湯とした赤子は、名付け親の提督に「パルテノペ」という名を授かった。これは、かつてギリシア人が植民都市としたナポリの前身の名称であり、ギリシア神話の「セイレーン」の名でもある。まさにパルテノペは、神秘性を纏った“ナポリの申し子”として誕生する主人公なのだ。
権力者の観る景色のなかで育ったパルテノペは、圧倒的な美貌と頭脳に恵まれ、人々に「女神」と賞賛されるようになる。多くの男性から羨望の眼差しで見つめられる彼女だが、部屋に置かれた馬車の中で「あなたは周りをまわって見てるだけ」と言う姿が象徴するように、パルテノペは求められていることを十分に理解しながら、その美しい肉体に触れさせることはない。まるで、「自分には誰も相応しくない」と語るかのように。
『パルテノペ ナポリの宝石』©2024 The Apartment Srl - Numero 10 Srl - Pathé Films - Piperfilm Srl
読書を趣味とし、深窓の令嬢として邸の中や海辺をなかなか出ない彼女に、兄のライモンド(ダニエレ・リエンツォ)と幼馴染のサンドリーノ(ダリオ・アイタ)は、ナポリ湾から眺めることのできるリゾート地・カプリ島へと誘う。若者だけの貧乏旅行なので、宿泊をしないホテルのプールに潜り込んで時間を潰すわけなのだが、そのホテルには実在のアメリカの作家ジョン・チーヴァー(ゲイリー・オールドマン)が滞在していた。
チーヴァーはアルコール依存でフラフラな状態であるものの、熱烈なファンだったパルテノペは、運命の出会いを果たした感情も相まって、初めて恋愛対象としてアプローチしようとする。そのとき同性愛に傾いていたチーヴァーは申し出を断ることになるのだが、同時にパルテノペには人を魅了し破壊する力があることを示唆する。この言葉は、彼女にとって啓示のように響き渡った。男に“与える”と考えるから惜しくなるのであって、発想を転換し、自身の美貌を利用して逆に男から“奪う”のだと考えれば、能動的な姿勢で欲望を解放できるのである。