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『蟲』ヤン・シュヴァンクマイエルが最後の劇場長編に刻んだものとは

© Athanor Ltd.

『蟲』ヤン・シュヴァンクマイエルが最後の劇場長編に刻んだものとは

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※本記事は映画の詳細に触れているため、未見の方はご注意ください。



『蟲』あらすじ

チャペック兄弟の有名な戯曲『虫の生活』の第二幕「捕食生物たち」に取り組む、小さな町のアマチュア劇団。遅刻や欠席するメンバーたちのやる気の無さに、コオロギ役兼任の演出家は怒りが収まらない。不穏な空気でリハーサルが進むなか、やがて劇の展開と役者たちの行動が交錯し、ついに舞台に惨劇が訪れる!


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シュヴァンクマイエル、最後の劇場長編



 イジー・トルンカ、カレル・ゼマン、ヘルミーナ・ティールロヴァー、イジー・バルタなどの巨匠を輩出してきた、チェコのアニメーション界。その巨匠の一人であるヤン・シュヴァンクマイエルは、なかでもひときわ個性的な作家性で、先鋭的なモチーフへの表現を続けてきたアニメーション作家だ。


 他の作家同様に政治的なテーマを扱いながらも、シュルレアリスムに傾倒するシュヴァンクマイエルの作風は、不条理な展開やナンセンスな結末を生み出し、実写とアニメ表現を行き来しながら、しばしばグロテスクな表現にも踏み込んで、観客を独自の世界へといざなってきた。そんなシュヴァンクマイエルが「最後の劇場長編」として送り出した『蟲』(18)が、ついに日本で公開された。



『蟲』© Athanor Ltd.


 しかし『蟲』には、作品それだけを観ただけでは理解しづらく、難解に感じられる部分も多い。ここでは、作品へのアプローチや、彼自身の作品への言及を中心に、巨匠シュヴァンクマイエルの足跡をたどりながら、その内容を考察していきたい。


 カレル&ヨゼフ・チャペックによる、1921年に発表された戯曲『虫の生活』は、擬人化された虫たちの生態を通して、人間社会における階級的なシステムや利己的な姿を風刺した作品だ。本作『蟲』では、この戯曲を演じようとする“アマチュア劇団の稽古”の様子を見せていく。観客は、そんな虫の寓話と、それを演じる人間たちの姿を同時に意識しながら鑑賞していくことになる。


 劇団員たちは稽古中に台本を忘れたり、イチャつこうとしたり、編み物をしながら読み合わせをするなど、基本的にやる気がない。コオロギ役を兼任する演出家は、終始イラついている。この状況は、人間同士の感情や欲望を巻き込みながら、次第に異様な方向へと発展していく。





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