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『2001年宇宙の旅』を70mmプリント、IMAXデジタルで鑑賞する意義とは?
実現が待たれる「スーパーシネラマ」方式での再上映
70mmニュープリントの公開が現実となった『2001年宇宙の旅』だが、細かいことを言えばあとひとつ、オフィシャルな映写形式である「スーパーシネラマ」による再上映が残されている。35mmプリント3本を同時にスクリーンに映す、分割式「シネラマ」のことは先述したが、スーパーシネラマは70mmプリント1本をシネラマと同じ湾曲スクリーンに投影するシングル式のもので、人間の視野角にフィットする鑑賞環境は観客に深い没入感を与えるのだ。(注:かつては分割式もフレーム数の改変を機にスーパーシネラマと呼ばれていたが、混乱を招くので本稿ではシングル式のみスーパーシネラマと呼ぶ)
『2001年宇宙の旅』のようにスーパーパナビジョン70で撮られた作品は、スーパーシネラマで上映するさい、同規格の比率に合うよう画面の天地をトリミングし、また湾曲スクリーンに映しても左右の画面が伸びぬよう、両側に圧縮をほどこしたプリントが必要となる。そのため特殊レンズを装着したオプチカルプリンターで専用プリントを作成せねばならないのだが、今回そこまでは手が込んでいないようだ。よしんばそうした行程を踏まえたプリントが準備されていたとしても、あいにく日本にはスーパーシネラマ上映の可能な劇場が現存していない。
『2001年宇宙の旅』(c)1968 Turner Entertainment Co. All rights reserved.
とはいえ、特設で湾曲スクリーンを設置するなど、国内でスーパーシネラマを観る方法は決してゼロではない。4DXやMX4D、応援上映やシネマコンサートといった、実体感型の映画上映が活況を呈している昨今、スーパーシネラマ版『2001年』は好評が期待できる企画だ。実現すれば観客も、今回の70mmやIMAXとはひと味違う印象を得られるに違いない(実施のさいはぜひ、分割式シネラマ作品の併映も視野に入れてほしい)。
ここにきての別フォーマットへの言及で「いったいどれが正当な『2001年宇宙の旅』の上映スタイルなのか?」と感情的になるかもしれない。が、そこはグッと呑み込んで、スーパーシネラマはいずれの楽しみにとっておこう。プロダクション(撮影期間)だけでおよそ2年以上を費やし、今の商業映画の常識では計ることのできないスケールの『2001年宇宙の旅』を劇場で観ること。それ自体がきわめて贅沢な体験なのだから。
参考文献・資料
レーザーディスク『2001年宇宙の旅 デラックス版〈ワイド〉』解説書(パイオニアLDC)
Alison Castle “The Stanley Kubrick Archives”(TASCHEN)
Piers Bizony“The Making of Stanley Kubrick's '2001: A Space Odyssey'”(TASCHEN)
シネフェックス日本版 第29号(トイズプレス)
映画評論家&ライター。主な執筆先は紙媒体に「フィギュア王」「チャンピオンRED」「映画秘宝」「熱風」、Webメディアに「映画.com」「ザ・シネマ」などがある。加えて劇場用パンフレットや映画ムック本、DVD&Blu-rayソフトのブックレットにも解説・論考を数多く寄稿。また“ドリー・尾崎”の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、TVやトークイベントにも出没。Twitter: @dolly_ozaki
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