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『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』技術革新を牽引したキャメロンが描く“家族の物語”(前編)
2025.12.24
フェイシャル・キャプチャー・ソルバー
ただし、HMCでデータを記録しただけでは、CGモデルは動かせない。そこでWeta Digitalの技術・研究部門トップであるルカ・ファッショーネは、『アバター』のためにフェイシャル・キャプチャーのソルバー(計算を実行し、解を導き出すプログラム)のFACETS(Facial Action Coding and Expression Tracking System)を開発した。
これは、1シーンで12人以上のフェイシャル・キャプチャー(及びボディ・キャプチャー)が、同時に行えるシステムだ。これにより、複数キャラの感情のぶつかり合いや家族の会話を、キャメロンが普通に演出できるようなった。そして、HMCがトラッキングした顔のマーカーの座標データを、「ブレンドシェイプ」に変換して、CGアニメーターが後から編集しやすい形で出力してくれる。

『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』© 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.
ブレンドシェイプとは、あらかじめ用意された複数の基本表情を0~100%の割合で混ぜ合わせ、無数の表情を作り出す仕組みだ。つまり「50%笑顔+20%怒り→苦笑い」「30%驚き+40%怒り→困惑した怒り」のように、アニメーターの混ぜ方次第で無限の表情が作れる。これにより「俳優の演技×アニメーターの表現力」という理想的な融合が可能になった。Weta Digitalは、「キャプチャーとアニメーションの境界が消えた」と述べている。
さらに『WoW』ではFACETSの後継となる、AIを用いたフェイシャル・ソルバーFDLS(Facial Deep Learning Solver)を、Wētā FX(元Weta Digital)社の研究者ワン・ドゥオ・カート・マーらが開発した。ここで言うAIとは、もっぱら盗作問題などが話題となりがちな「生成AI」のことではなく、ニューラルネットワークを多層化し、画像認識を効率化させるための深層学習技術を言う。
具体的には、HMCで撮影した俳優の表情をAIが解析し、「右眉を上げる:0.42」「口角を下げる:0.18」などの数値に変換することで、マイクロ・エクスプレッション(微表情)までキャプチャーが可能になった。つまり、人間の目では気付かないレベルの筋肉の動きまで、確実にFDLSが拾い上げてくれる。そしてこれも、ブレンドシェイプ・データとして出力し、CGアニメーターがさらに微調整を加えることで、より深みのある表情を作り出すことが可能になった。