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『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』技術革新を牽引したキャメロンが描く“家族の物語”(前編)

© 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』技術革新を牽引したキャメロンが描く“家族の物語”(前編)

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『WoW』でより進化したフェイシャルシステム



 加えて『WoW』では、Wētā FXのシニアVFXスーパーバイザーであるジョー・レッテリが主導し、トロント大学のコンピュータサイエンス教授カラン・シンがAPFS(Anatomically Plausible Facial System)を開発している。シン教授の専門は、「キャラクターアニメーションにおける幾何学的手法による自然な表情生成」で、APFS技術の理論構築を担った。


 APFSとは、「顔の皮膚の伸び、筋肉の収縮、脂肪の揺れまでを、生体力学的に正しく再現する」というシステムで、これを実現させるために必要だったのが、シンの幾何学的変形モデルだった。これにより、ナヴィの顔の筋肉構造が数学的にモデル化され、物理的に破綻しない変形アルゴリズムが設計された。


 こうしてFDLSから渡される表情データを、ナヴィの顔へ自然に変換する仕組みが完成し、その表情は“人間より人間らしい”領域に到達している。そもそも、ナヴィの顔は人間とは骨格が異なるが、『WoW』では筋肉の連動がより滑らかになり、従来のブレンドシェイプでは難しかった、「怒り→困惑→諦め→愛情」といった複雑な感情の移ろいが、一つのショットの中で表現できるようになった。これは、ナヴィたちの微細な感情表現を、破綻なく描くために不可欠な技術だった。



『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』© 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.


 『FaA』におけるナヴィの心理が観客に届くのは、俳優の演技の微細な揺らぎをFDLSが確実に拾い、APFSがそれを“破綻しない理想の顔”として再現しているからだ。これによって、ロアクの“父への反発と愛情の同居”や、ジェイクやネイティリの“スパイダーへの葛藤”も、見事に表現されている。もちろんベースとなる俳優の演技力が重要なのは、言うまでもない。


パンドラの世界のデザイン



 父子の葛藤や感情の揺れが観客に届く、もう1つの条件はデザインである。これに関しては、前回の『WoW』の記事( https://cinemore.jp/jp/erudition/2775/article_2777_p5.html#a2777_p5_1 )でも述べたが、パンドラの世界は地球とそれほど大差なく表現されている。もちろん、地殻中のアンオブタニウムが作り出す強力な磁場により、巨岩が天空に浮いているという幻想的風景はあるものの、ナヴィやトゥルクンをはじめとした生物たちは、地球のものと相似的にデザインされた。これは収斂進化(*2)の結果と解釈できる。


 だがそれ以上に、映画として観客が「美しい風景だ」と感じたり、ナヴィたちの感情を読み取れるように配慮されたためだろう。想像を絶する奇天烈な風景や、目がどこにあるのかも分からないような生物を考案することもできただろうが、それだと濃いSFファンしか取り込めない可能性がある。そのため、ディラン・コールを中心とするコンセプト・アーティストは、ナチュラルとファンタジーのギリギリの境界を狙ってデザインしている。


*2サメ、魚竜、イルカのように系統的に離れた生物であっても、生息環境によって形状が似てくること。つまり環境が似ていれば、まったく別の生物でも似た形に進化するという考え方。



後編に続く



文:大口孝之(おおぐち たかゆき)

1980年より日本エフェクトセンターのオプチカル合成技師。1982年に日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター。EXPO'90富士通パビリオンのIMAXドーム3D映像『ユニバース2~太陽の響~』のヘッドデザイナーなどを経て、フリーの映像クリエーター。NHKスペシャル『生命・40億年はるかな旅』(94)でエミー賞受賞。VFX、CG、3D映画、アートアニメ、展示映像などを専門とする映像ジャーナリストでもあり、映画雑誌、劇場パンフ、WEBなどに多数寄稿。プロ向け機関紙「映画テレビ技術」で長期連載中。東京藝大大学院アニメーション専攻、女子美術大学専攻科、日本電子専門学校などで非常勤講師。先進映像協会 ルミエール・ジャパン・アワード審査員。主要著書として、「3D世紀 -驚異! 立体映画の100年と映像新世紀-」ボーンデジタル、「裸眼3Dグラフィクス」朝倉書店、「コンピュータ・グラフィックスの歴史 3DCGというイマジネーション」フィルムアート社




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作品情報を見る



『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』

大ヒット上映中

配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

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