(C) 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』を生み出した映像革命とは?その最新技術に迫る(後編)
2022.12.20
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の評価
『WoW』が公開されると、各国で興行収入第1位が報じられた。一方で批判する声も少なくない。よくある例として、「『アバター』シリーズは白人酋長モノの焼き直しに過ぎない」というものがある。「白人酋長モノ」あるいは「白人の救世主モノ」とは、白人の主人公が侵略される側の人々に共感し、原住民を率いて戦う…といった内容の作品を言う。そして参考例として『アラビアのロレンス』(62)、『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(90)、『ラスト サムライ』(03)、『ジョン・カーター』(12)などが挙げられる。だが実際はこんなものではなく、60本を超える数の同種の映画が作られている。
つまりこれは、一つの映画のジャンルとして確立しており、そこをわざわざ指摘して叩くような大層なことではない。どんな作品でも突き詰めていけば、どこかで類型のストーリーに必ず出会う。『スター・ウォーズ』(77)にせよ、『アルマゲドン』(98)にせよ、『マトリックス』(99)にせよ、雛形になった作品群が必ず発見できる。
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(C) 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
次に多い批判は、アメリカ映画の典型的な「ファミリーもの」だという指摘だ。実際に筆者も、「オクラホマの土地を砂嵐と開発業者に奪われ、あてもなくカリフォルニアを目指して旅をする大家族」という内容の、『怒りの葡萄』(40)を連想してしまった。今後のシリーズで予想される展開は、『ゴッドファーザー』シリーズが影響しているかもしれないし、スパイダー(ジャック・チャンピオン)がアナキンのようになっていく『スター・ウォーズ』シリーズ風のストーリーも予想できる。
そしてキャメロン自身が、「5作目は地球が舞台かも?」と半ばネタバレのようなことを話していることからも分かるように、このシリーズはそれほどオリジナル性にはこだわっていない。逆に、あえて王道の「アメリカ映画」スタイルを取ることで、万人に分かりやすい話にしたのだと思われるのだ。
実際にキャメロンは、相当な数のSF小説を読み込んでおり、やろうと思えばグレッグ・イーガンのような極北のハードSF的ストーリーも書けるだろう。しかしそれでは、興行として成り立たないのだ。実際キャメロンは、『アビス』(89)や、製作を手掛けたリメイク版『ソラリス』(02)において、何を考えているのか分からないエイリアンとの遭遇を描いて興行的に失敗している。また、ラストにエウロパの海底文明と出会う、IMAX 3Dドキュメンタリーの『エイリアンズ・オブ・ザ・ディープ』(05)を監督していることなど、知らない人の方が多いのではないだろうか。
『エイリアンズ・オブ・ザ・ディープ』予告
ナヴィたちの姿は、尾が生えており肌も青いなど異質ではあるが、目や口など感情描写に関する箇所は人間とほとんど同じだ。こういったことは、収斂進化で片づけられるかもしれないが、今一つSF的にはつまらない。本当なら、『メッセージ』(16)の7本脚異星人ぐらい発想を飛ばした方が面白いだろう。
でもそんなことは百も承知なのだ。キャメロンの意図は、「イマジネーションの世界を、細部に至るまで完全に描き出す」ということにある。でもそのためには、莫大な時間と経費、人材が必要になる。だからあえて難解な物語を避け、だれもが感情移入できるストーリーやデザインが必要なのだ。鑑賞する側も、幼少期に初めて水族館や博物館を訪れた時や、図鑑を目にした時のワクワク感を思い出せば、キャメロンの意図も素直に受け止められるのではないだろうか。
1982年に日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター。EXPO'90富士通パビリオンのIMAXドーム3D映像『ユニバース2~太陽の響~』のヘッドデザイナーなどを経てフリーの映像クリエーター。NHKスペシャル『生命・40億年はるかな旅』(94)でエミー賞受賞。VFX、CG、3D映画、アートアニメ、展示映像などを専門とする映像ジャーナリストでもあり、映画雑誌、劇場パンフ、WEBなどに多数寄稿。デジタルハリウッド大学客員教授の他、早稲田大理工学部、女子美術大学専攻科、東京藝大大学院アニメーション専攻、日本電子専門学校などで非常勤講師。主要著書として、「3D世紀 -驚異! 立体映画の100年と映像新世紀-」ボーンデジタル、「裸眼3Dグラフィクス」朝倉書店、「コンピュータ・グラフィックスの歴史 3DCGというイマジネーション」フィルムアート社
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