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『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』を生み出した映像革命とは?その最新技術に迫る(後編)

(C) 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』を生み出した映像革命とは?その最新技術に迫る(後編)

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ステレオ撮影の進歩



 また『WoW』はCGキャラクターの比率が高いため、どうしても見落とされがちなのだが、実写のステレオ撮影もかなり進化している。今回キャメロンは、早い段階からSONYに全面協力を求め、撮影監督のラッセル・カーペンターと共に、新しいステレオ撮影システムの開発に取り組んできた。この要求に答えたSONYは、6K×4Kのフルフレームイメージセンサーを搭載し、HFR、HDR撮影が可能なカメラCineAlta VENICEを用意した。


 この機種の特徴は、約1.4Kgのカメラヘッドを、本体と分離して使えることだ。そのため、2台のカメラを用いるステレオ撮影でも、3Dリグ(2台のカメラを組み合わせる装置)全体を大幅に軽量化でき、手持ち撮影も可能になる。実はこの仕様は、『WoW』のために、キャメロンのライトストーム社側からSONYに要求されたことだった。それが副産物として、『トップガン マーヴェリック』(22)の戦闘機のコックピット内撮影へと繋がっていく。


 ちなみに前作の『アバター』(09)では、ヴィンス・ペイスが開発したフュージョン・カメラ・システムという3Dリグが使用されている。そして映画公開後は、キャメロンとペイスが共同でキャメロン・ペイス・グループ(CPG)という会社を立ち上げて、3Dリグの製造、販売、レンタルなどを行っていた。しかしキャメロンは2014年にオーナーの座を去り、CPGはビデオ・イクイップメント・レンタル(VER)という会社に買収される。そして同社のデジタルシネマ部門と統合され、 シネバースと呼ばれる新事業へ組み込まれた。


 こういう事情もあって、『アバター』公開当時のキャメロンは2D/3D変換に否定的な発言を多く残している。そのためこの言葉を素直に信じ、今でも「2D/3D変換は良くない」という“誤った”概念を持ち続けている人は少なくない。しかし実際はまったく違っていた。そのキャメロン自身が2005年から『タイタニック』(97)を3D変換する計画を進め、いくつかのスタジオでテストを繰り返していたのだ。



『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(C) 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.


 そのころ、日本の泉邦昭氏が独自開発した2D/3D変換技術“VDX”に、『アバター』でRDA(資源開発公社)の開発責任者パーカー・セルフリッジを演じたジョヴァンニ・リビシが注目し、キャメロンに伝えた。実は、フュージョン・カメラ・システムでステレオ撮影したが、視差などが不適切なショット(*1)が、いくつも発生してしまっていたのである。今さら撮り直す時間も残っていなかったことから、キャメロンは2D/3D変換に賭けた。そして、数社の変換プロダクションでブラインドテストを実施し、VDXの優秀性が確認される。本番使用での結果もうまく行き、『アバター』は無事に3D公開を成功させた。


 その後2009年に、泉氏とリビシは2D/3D変換企業のステレオD社を、ロサンゼルスに設立する。そしてキャメロンの『タイタニック3D』(12)や『ターミネーター2 3D』(17)の他、マーベル・シネマティック・ユニバースや『ジュラシック・ワールド』シリーズ、『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』(17)など、数多くの大作映画を手掛けてきた。こういったことから、2010年よりハリウッドの最大手ポストプロダクションである、デラックス・エンターテインメント・サービス・グループの傘下になる。また2022年からは、Company 3に買収され、総合VFXサービスを提供するSDFXスタジオとなった(泉氏と多くの日本人スタッフは、すでにここを去っている)。


 なお『WoW』用の3Dリグは、シーンに合わせて複数のタイプが開発された。例えば水中撮影用には、ACS(オーストラリア撮影監督協会)に所属する海中IMAXカメラマンのパーヴェル・アクテルが、ニコノス15mmレンズと水中ビームスプリッターを用いて設計した、DeepX 3Dという専用のリグが使用されている。


*1 『アバター』では実写のステレオ撮影だけでなく、CGがメインのショットにも問題はあった。例えば、映画冒頭に登場する宇宙船ISVベンチャースターの内部に、コールドスリープのポッドが並ぶ場面では、強過ぎる視差が不快感を生んでいた。『WoW』にも同様のシーンが登場するが、こういった問題は払拭されている。




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