遍在する「私たち」
で、最終的に私の目線は、サンウォンとウィジュそのものへと帰ってくる。常連俳優のクォン・へヒョが演じるような脂の乗った芸術家的な役柄とは違い、ウィジュはもうちょっと年配で、おそらく60代半ばくらいだろうか。苗字が「ホン」というのも気になる。もしや、1%くらいはホン・サンスの別人格的な何かが込められているのだろうか。とすると、逆にサンウォンの側には、公私にわたるパートナーでもるキム・ミニ的な何かが投影されているのか…。
繋がりそうで繋がらないサンウォン&ウィジュ自身。サンウォンと親しい友人たち。ウィジュと彼を慕う若者たち。登場することはないが大切な人々。さらにはキム・ミニとホン・サンス。そしてウリ(韓国語で「私たち」という意味)という名の猫の存在。

『私たちの一日』©2023 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.
かくも「私たち」はひとつにあらず。場所と時間を超えて遍在し、幾通りにも解釈可能なところが本作の面白さである。重ねて言うが、ホン・サンス作品に明確な答えはないのだ。
全てはそのまま。あるがまま。開けっぱなしの扉から心地よい風が吹き込んでくる。窓からは暖かい日差しが差し込む。俳優たちを、そして観る側の私たちを「大丈夫だよ」と包み込む優しい世界がそこには広がっているかのようだ。
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
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『私たちの一日』
監督デビュー30周年記念「月刊ホン・サンス」第4弾
ユーロスペースほかにて新作を5カ月連続で順次公開中
配給:ミモザフィルムズ
©2023 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.