『私たちの一日』(23)は、ホン・サンスの監督人生における記念すべき30本目の長編作である。この数字が彼にとってどれほど意味を持つのかは分からないが、一人のファンとしては心の片隅で「おめでとう」と唱えつつ、「でもどうかいつもと変わらぬ佇まいで」という思いも湧き起こる。節目となるタイミングでこそ飄々とやり過ごすのがホン・サンス流だと、何の確証もないのにそう感じる自分がいるのだ。
『私たちの一日』あらすじ
ある二人の人物が、二つの家でそれぞれに過ごす一日。ひとりは、友人の家に居候する休業中の女優サンウォン。もうひとりは、小さなアパートで一人暮らしをする詩人のホン・ウィジュ。彼らのもとには将来への不安を抱く若者たちが訪れ、さまざまな質問を投げかける。そんな折、サンウォンの友人の飼い猫がふと姿を消して──。交わりそうで交わらない、二人の一日が静かに並走していく。
Index
交わりそうで交わらない二つの日常
予想どおり、『私たちの一日』はささやかで穏やかな一作となった。主役を担うのは歳の離れた二人の人物。俳優としての仕事を休業中で仲の良い先輩の家に居ついているサンウォン(キム・ミニ)と、若者に人気を集める詩人のホン・ウィジュ(キ・ジュボン)だ。彼らの生活は一向に交わることなく、まるで別ユニバースの住人のごとく平行線を辿りながら過ぎていく。いわば本作には二つの物語軸があり、我々は交互に語られる室内の会話劇を「どこかで繋がるのだろうか?」と考えながら、ただただ見つめる、という様相。

『私たちの一日』©2023 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.
もしもこれがあなたにとって初のホン・サンス作品だとしたら、魅力や本質がきちんと伝わったかどうか、私は紹介する側としていささか不安になる。でも仮に「これをきっかけに断然ファンになりました!」なんて人がいたら、それはそれで心配になるかもしれないが。いや、本作を否定しているわけではない。それほどこの映画は、窓から差し込む光や、吹き込む風のような、”日常の通過点”に思えるのだ。つまりこれまで同様、ホン・サンスの世界はこれからも続いていくーー。