© 2025 MER FILM / EYE EYE PICTURES / LUMEN / MK PRODUCTIONS / ZENTROPA ENTERTAINMENTS5 APS / ZENTROPA SWEDEN AB / KOMPLIZEN FILM / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / ARTE FRANCE CINÉMA / FILM I VÄST / OSLO FILM FUND / MEDIEFONDET ZEFYR / ZDF / ARTE
『センチメンタル・バリュー』演技や感情は何のために彫刻されるのか?
2026.03.04
感情の価値を彫刻する
グスタフが昔撮った映画が、ドーヴィル映画祭で上映される。カメラは客席にいるグスタヴを捉える。姉弟と思われる子供たちがドイツ軍から逃げて列車に乗り込み、少女だけが助かるシーンが、ワンカットの長回しで撮られている。グスタフは感動で打ちのめされている。自分の手から離れた作品が持っていた偉大さに打ちのめされている。この映画は名作として評価されている作品だ(恐るべきことに、名作と呼ばれるにふさわしい本当に素晴らしいショットで撮られている!)。このレトロスペクティブ上映に居合わせたハリウッドスターのレイチェルが、感動で涙を流している。レイチェルはグスタヴをディナーに招く。ドーヴィルの浜辺でレイチェルは、映画に感動したことをグスタヴに告げる。エル・ファニングの演技が素晴らしい。グスタフに映画の感動を伝えるとき、レイチェルが心の中で映画のラストシーンを再生していることがダイレクトに伝わってくる。浜辺を馬車に乗って去っていくハリウッドスター。淡い色彩のドーヴィルの浜辺のシーンは、それ自体が映画的であり、桃源郷のような彼方の世界である。
レイチェルはグスタヴの15年ぶりの新作にキャスティングされる。しかしレイチェルは、その繊細さゆえか、いろいろなことに気付いてしまう(繊細だからこそ、グスタヴに「世代最高の俳優」と讃えられるのだろう)。レイチェルは誠実な俳優だ。この役が他の誰かに演じてもらうために書かれたことを察していく。レイチェルは自分がグスタヴの“仮の娘”であることに気付いていく。そして本読みで感極まり、涙をこぼす素晴らしいシーンがある。エル・ファニングは、このシーンを演じるのが本当に難しかったと語っている。演技の真実性を保ちながら、この役を演じるのに自分よりふさわしい人物がいることを『センチメンタル・バリュー』を見る観客に示す必要があるからだ。しかしエル・ファニングは、見事にこのシーンを演じきっている。

『センチメンタル・バリュー』© 2025 MER FILM / EYE EYE PICTURES / LUMEN / MK PRODUCTIONS / ZENTROPA ENTERTAINMENTS5 APS / ZENTROPA SWEDEN AB / KOMPLIZEN FILM / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / ARTE FRANCE CINÉMA / FILM I VÄST / OSLO FILM FUND / MEDIEFONDET ZEFYR / ZDF / ARTE
レイチェルはグスタヴではなく、彼女が演じる役に拒絶される。拒絶は反復される。この映画には反復が溢れている。グスタヴの脚本を読まずに拒絶したノーラは、不倫関係にあるヤーコプにキスを拒絶される。森の中を静寂が支配する。ノーラの心は森の中に取り残されてしまう。そしてレイチェルの本読みは、ノーラによって反復される。アグネスに頼まれ、ノーラは感情を込めずに本を読み始める。レイチェルには再現できない真実性がその場に降りてくる。自分自身から逃れるために俳優になったノーラは、ボルグ家の悲しい歴史の中に自分がいることを肯定的に、祈りのように受け入れる。ノーラの本読みによって、アグネスは涙を流す。涙を流すアグネスは、子供の頃に映画で演じた少女役を無意識に“反復”させている。
ノーラが自分に追いついただけでなく、アグネスも少女の頃にスクリーンで披露した“自分”にようやく追いつく。演技や感情が彫刻されること、さらに私たちの芸術体験そのものは、その人が背負ってきた喜びや苦しみと切り離せるものではない。だからこそ、こんなにも美しい。『センチメンタル・バリュー』を見ると、美しさとは何か?ということを考えさせられる。美しさとは、相手が背負っている感情の価値を認めることなのではないだろうか。それが叶わない理想、彼方へ向けられた微笑みだったとしても。
映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。
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『センチメンタル・バリュー』
TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中
配給:NOROSHI ギャガ
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