狂信的な愛読者による、世にも凶悪な“推し活”
ここで物語を簡単におさらいしておこう。ロマンス小説「ミザリー」シリーズで売れっ子となった作家ポール・シェルダンは、じつはこのシリーズが嫌いで、最新刊は理想とする本格的な小説にしようと雪山のロッジで執筆に勤しんでいた。ところが、脱稿したその日、彼は吹雪の中で自動車事故に遭い、瀕死の重傷を負う。彼を助け出したのは、アニーという元看護師で、「ミザリー」シリーズの熱狂的なファン。ポールは脚を複雑骨折して身動きが取れなかったが、豪雪で電話が通じなくなり、救急車を呼ぶことができないという。仕方なくポールはアニーの家で、彼女の看病を受けながら過ごすことになる。
アニーの家のベッドの上で寝たきり状態となったポールは、最初こそ命の恩人と彼女に感謝していたが、その気持ちはほどなく変化する。段階的にあらわになっていく、アニーの異常心理。癇癪持ちであることは早い段階で明かされるが、「ミザリー」の最新刊でヒロインが死ぬことに激怒した彼女は、最新作の原稿を燃やさせる。そればかりか車椅子とタイプライターを用意し、ヒロインが復活するシリーズの最新刊を執筆するよう強制。監禁状態に置かれたポールはこの狂信的ファンの凶悪な“推し活”に、ただただ従うしかない。

『ミザリー』(c)Photofest / Getty Images
映画の多くのパートは、このふたりの密室での駆け引きに費やされる。ポール役には『ゴッドファーザー』(72)などで知られるジェームズ・カーン。そしてアニーを演じるのは、それまで主に舞台でキャリアを重ねてきたキャシー・ベイツ。彼らの演技のアプローチは正反対だった。カーンはリハーサルを重ねて演技の鮮度を落とすより、インスピレーションを重んじるタイプ。対するベイツはリハーサルを重ねて役をつくっていくことに慣れていた。この姿勢の違いゆえ、彼らは現場でしばしば対立した。ライナー監督は苛立つベイツに、“その怒りをアニーという役にぶつけろ”とアドバイスしたという。両者の演技は緊迫した状況を盛り立てる重要なエッセンスだが、背景にはこんなエピソードもあったのだ。