スリラーでは珍しい、アカデミー主演女優賞の栄冠
もう少し、ふたりの主演俳優に焦点を当ててみよう。当初ポール役にはウォーレン・ベイティが予定されていて、脚本の作り込みにも貢献。とりわけ、ポールという頭のいい男が寝たきりとはいえ反撃に転じないのはおかしいという彼の意見は、脚本を練るうえで大いに参考になったという。残念ながらベイティはスケジュールの都合で降板したが、代わってポール役にふんしたカーンの演技がとにかく素晴らしい。身動きのとれない役だけに、重要となるのは表情だ。人当りのよさ、何かを企んでいるようなポーカーフェイス、それが失敗したときの落胆などなど、アップでとらえられた顔からは、それが生々しく伝わってくる。

『ミザリー』(c)Photofest / Getty Images
表情がアップでとらえられるのはアニー役のキャシー・ベイツも同様だ。ただし、こちらはポール以上に感情の振り幅が大きい。喜怒哀楽や機嫌の良し悪しがはっきりわかる。人の良いご婦人として登場したかと思ったら、悪質なクレーマーのように大声でわめきたてたり、目に狂気を宿らせたり、かと思うと恋する少女のようにポールを見つめてみたり。が、それらがいつどのタイミングで出てくるのかわからないから、彼女が登場する度に空気が張り詰める。
キャシー・ベイツは本作でみごとにアカデミー賞の主演女優賞を受賞。それも納得の怪演だ。彼女の姿をもっとも鮮烈に焼き付けたシーンをひとつ挙げるなら、それはハンマーでポールの足首を叩き折る、本作でもっとも戦慄するであろう場面だ。原作では斧で足を切断するという設定となっていたが、これではポールが払う代償が大きすぎると判断したライナー監督は変更を選択。それでも衝撃的過ぎるほど恐ろしいシーンとなったのは、淡々とこの作業をこなすアニーを演じたベイツの不気味さの体現ゆえだ。