アニーはドラッグ!? スティーヴン・キングの胸の内を探る
原作におけるアニーを、キングは“私のドラッグ問題”と称した。というのも、この時期の彼はアルコールや薬物の依存症に悩まされていたのだ。原作ではアニーがあたえる強い鎮痛剤により、ポールは薬物中毒となっていく。この部分は映画では変更され、ポールは鎮痛剤を服用したフリをして、反撃の武器としてこっそり貯めている。そういう意味では、映画版のポールの方が小説よりも能動的なキャラクターだ。映画がつくられたとき、キングは中毒から脱していたが、ポールの姿にサバイバーを見たのかもしれない。本作を大のお気に入りに挙げる理由は、そこにあるのではないだろうか。

『ミザリー』(c)Photofest / Getty Images
ライナー監督もまた、ポールの姿に自分を見出していた。それまで『恋人たちの予感』(89)をはじめコミカルな作品で評価を得てきた彼は、撮りたい作品として、まったく毛色の異なる本作を選んだ。安定路線を捨てて書きたいものを書こうとしていたポールの姿に自分を重ねた、というわけだ。2025年に惜しまれつつ世を去ったライナーはリベラルな政治活動に積極的に参加していたことから、ドナルド・トランプに目の仇にされていたが、クリエイターとしてもリベラリストだったのだ。
賞賛の声を集めた映画『ミザリー』は、『羊たちの沈黙』(91)や『セブン』(95)へと続く1990年代のサイコスリラーの先駆けにもなった。アニーのキャラクターは、「映画の中のもっとも恐ろしいヴィラン」という企画では、必ずといってよいほどピックアップされる。映画の好評を受けて舞台でも上演され、2005年には日本での舞台化も実現した。今後もキング作品の映像化作品は作られ続けるだろうが、これほどの影響力を持つ映画が、はたして現われるだろうか。
文:相馬学
情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。
(c)Photofest / Getty Images