(C) ARENA FILMS / POLA PRODUCTION / THÉO FILMS / FRANCE 2 CINÉMA / PANDORA FILMPRODUKTION / EURO SPACE / VEGA FILM
『ポーラX』美しい傷跡、強い傷跡、愛されたという傷跡
破格の俳優ギョーム・ドパルデュー
「ベルリンで偶然に、カテリーナ・ゴルベワの顔を10秒間だけスクリーンで見たとき、可能性が見え始めたのです。それから2年後、ギョームと出会い、すぐに彼をとても好きになりました。貴族でありながら不良のような彼の混乱、その美しさ、若さ、女性らしさ、曖昧さ。」(レオス・カラックス)*1
レオス・カラックスとギョーム・ドパルデューは、自他共に認める“兄弟”のような関係だった。2人は3年間に渡り、口論と和解を繰り返しながら『ポーラX』の制作について話し合っている。ギョーム・ドパルデューは、レオス・カラックスの映画に出演することのリスクをはっきりと自覚していた。『ポーラX』のピエールと同じく、ギョーム・ドパルデューは、感覚の乱れによって未知を切り拓くような激しい生き方をしていた。伝説の詩人アルチュール・ランボーのように。破格の俳優ギョーム・ドパルデューは、37歳の若さで亡くなっている(アルチュール・ランボーと同じように片足の切断手術を受けたギョーム・ドパルデューは、晩年にこの詩人の役を演じる予定だった)。アルテのテレビ放映用に再編集された『ポーラX』のロングバージョンには、ピエールがバルバラの「あなたが帰る日」を歌うシーンが含まれている。はにかむように笑顔を浮かべ、言葉を絞り出すように歌うギョーム・ドパルデューの無防備な姿に、ピエールというキャラクターが完全に重なっている。
「孤独なまなざしをした小さな男の子/小さな庭で悲しみを隠していた/ビー玉遊びや戦争ごっこができた/すべてを捧げたのに何も得られなかった」(バルバラ「あなたが帰る日」)
ピエールは中華料理屋でイザベルの仲間たちと、束の間の穏やかな時間を過ごす。ピエールの膝には小さな女の子が乗っている。筆者は子供と遊んでいるときのギョーム・ドパルデューの優しい表情が好きだ。生前に制作されたドキュメンタリー映像を見ると、ギョーム・ドパルデューという人は、破天荒というよりも、ただただ、たまらなく魅力的な人だと思える。

『ポーラX』4Kレストア版 (C) ARENA FILMS / POLA PRODUCTION / THÉO FILMS / FRANCE 2 CINÉMA / PANDORA FILMPRODUKTION / EURO SPACE / VEGA FILM
『ボーイ・ミーツ・ガール』(84)で、主人公アレックスがレコードを万引きするシーンをはじめ、レオス・カラックスがバルバラの大ファンであることはよく知られている。ギョーム・ドパルデューは、家族ぐるみでバルバラと親交があった。父親のジェラール・ドパルデューは、ギョーム・ドパルデューが入院中に紙切れに書いた詩に感銘を受け、その紙片をこっそりポケットにしまい、友人のバルバラに見せている。「自分を探し続けた結果、失ったのは君だった」。バルバラは彼の美しい詩に魅了される。ギョーム・ドパルデューは、バルバラの楽曲に詩を提供することを快諾する(しかし彼は、生涯父親のことを嫌っていた)。『ポーラX』の中華料理屋のシーンは、バルバラが亡くなったという報せを受けたあとに撮影されている。
繁華街の薄汚れたホテルで、ピエールとイザベルは別々の部屋に泊まる。花柄の壁紙の部屋で、ピエールはイザベルに語りかける。「最悪な疫病より最悪な本当の真実、それを書く」と。イザベルは彼が何を言っているのか分からない。ピエールの高揚していく魂と軽率な脆さが剥き出しになる独白シーンである。ピエールはひどく怯え始める。イザベルに助けを求める。「僕は怖い」と。ギョーム・ドパルデューがもっとも恐れていたシーンである。このとき彼は撮影現場に弾の入った銃を持参していたという。ピエールが自分に怒りをぶつけるシーンがある。イザベルのことを救えると思っていた自分に対し、「なんというペテン!」なのだと激しく責め立てる。ギョーム・ドパルデューとカテリーナ・ゴルベワという、破格の俳優。ギョーム・ドパルデューは2008年に。カテリーナ・ゴルベワは2011年に。2人は若くしてこの世を去っている。