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『ポーラX』美しい傷跡、強い傷跡、愛されたという傷跡

(C) ARENA FILMS / POLA PRODUCTION / THÉO FILMS / FRANCE 2 CINÉMA / PANDORA FILMPRODUKTION / EURO SPACE / VEGA FILM

『ポーラX』美しい傷跡、強い傷跡、愛されたという傷跡

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眠っている者は、常に一歩先を行っている



 『ポーラX』は、ハーマン・メルヴィルの「ピエール」を原作としている。若い頃、レオス・カラックスは友人のエリー・ポワカールから薦められ、この本を読んでいる(エリー・ポワカールは『ボーイ・ミーツ・ガール』に出演している)。この本の多くの読者と同じく、かなり苦労して読み終えたそうだ。しかし、レオス・カラックスにとってこの小説は、答えを教えてくれるわけではなく、自分が何者かを教えてくれるわけでもなく、正しい疑問を投げかけてくれる小説だった。「ピエール」という小説の“偽り”に関するテーマは、レオス・カラックス自身が80年代にメディアで議論されたことと関わっているのかもしれない。“レオス・カラックスは天才か?”という議論。そして彼は、この小説に描かれている異母姉というテーマに強く惹かれる。『ポーラX』は、“3人の姉妹”に捧げられている。レオス・カラックスは、姉妹が自分の世界のすべてだった幼い頃のことを懐かしく思い出すのだという。


 イザベルに出会う前から、ピエールは彼女のイメージを夢の中で描いている。夢に出てくるイザベルには顔はない。黒い髪がある。吐息がある。恋人のリュシーは、ピエールの夢に出てくる女性に不安を覚える。同じく不安に駆られる母親のマリーは、ピエールとリュシーの結婚式を予定より早める。そしてある日、デジャ・ヴが起こる。「顔よ、とうとうお前に会った」。デジャ・ヴ、夢、眠りというテーマは、レオス・カラックスのフィルモグラフィーを貫く重要なテーマだ。リュシーの登場シーンは眠りから始まる。ピエールは彼女を起こさないように、そっと近づいていく。眠りを邪魔しないようにするピエールの動きに、ジャン=イヴ・エスコフィエが『汚れた血』の撮影の心得について語っていた言葉が重なっている。「眠っている者は、常に一歩先を行っている。その眠りを壊さないこと」。『ポーラX』において、眠りとは創作であり、書くことである。そして書くことは、常に現実の一歩先を行っている。ピエールがペンを走らせる音が強調されている。猛烈なスピードでペンを走らせる音が、マリーのバイク事故のシーンに重ねられている。本作において、書くこと、眠ることは、不吉なイメージを引き寄せるすべてのきっかけになっている。



『ポーラX』4Kレストア版 (C) ARENA FILMS / POLA PRODUCTION / THÉO FILMS / FRANCE 2 CINÉMA / PANDORA FILMPRODUKTION / EURO SPACE / VEGA FILM


 ピエールとイザベルは不法占拠された廃墟のような工場にたどり着く。テロリストのようなグループのボスを、映画作家のシャルナス・バルタスが演じている。シャルナス・バルタスを追ったドキュメンタリーを見ると、『ポーラX』で演じた役とほとんど変わらないことに気づかされる。詩人兼、テロリストのような雰囲気を持ち、静かに話す人だ。それは彼の美しい映画作品と一致している。レオス・カラックスは、シャルナス・バルタスの『家』(97)という、極めて詩的な作品に出演している。この傑作には、シャルナス・バルタスとカテリーナ・ゴルベワが共同脚本にクレジットされている。また、シャルナス・バルタス作品のフランスでの上映を手伝っている。「シャルナス・バルタスの映画は、世界が世界であったときから常に存在していた」。レオス・カラックスによる推薦文は、シャルナス・バルタスの映画だけでなく、そのままカテリーナ・ゴルベワという俳優への最大級の賛辞になっている。レオス・カラックスは、シャルナス・バルタスの作品と出演者のカテリーナ・ゴルベワに、オリジナルの美、世界の“美の起源”のようなものを見出している。


 伝説的なミュージシャンであるスコット・ウォーカーが、『ポーラX』の音楽を担当している。スコット・ウォーカーは、シャルナス・バルタスが指揮するインダストリアル・ノイズバンドの撮影に立ち会っている。撮影現場では、シャルナス・バルタスが楽団を指揮する際の姿勢の正しさを確認したという。スコット・ウォーカーが手掛けた、この映画のメインテーマといえる「The Darkest Forest」という曲がやはり素晴らしい。不協和音が静かに、美しい恐怖のように耳に襲いかかってくる、深い闇に包まれ、幽霊が現れるような音楽である。スコット・ウォーカーは、レオス・カラックスへの創作上の連帯を次のように述べている。


「芸術と時代の限界に立ち向かいながら、脆弱さを保つその姿勢に、私は心を打たれる。」(スコット・ウォーカー)*2




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