(C) ARENA FILMS / POLA PRODUCTION / THÉO FILMS / FRANCE 2 CINÉMA / PANDORA FILMPRODUKTION / EURO SPACE / VEGA FILM
『ポーラX』美しい傷跡、強い傷跡、愛されたという傷跡
Beautiful Scars(美しい傷跡)
ポンヌフ橋のような立派な建築ではないが、『ポーラX』にも橋は出てくる。イザベルは錆びた鉄橋の上を走り抜ける。無数の死体の中にピエールの死体を見つける夢を見たのである。階段から落ちそうになるイザベルを、ピエールが抱き寄せる。イザベルは二度死にかける。フェリーから川に飛び込む。イザベルは川の底に死体があるという。自分の友達だけが川の底に眠っているという。『ポンヌフの恋人』で、ホームレスのハンスがセーヌ川に身を投げたように、レオス・カラックスの映画における“水のテーマ”が再び浮上する。レオス・カラックスの映画において水は、イメージを永遠に残し続ける墓標であり、イメージを運び、洗い流す液体である。イザベルは再びピエールに救出される。しかし、入院先の病院で、イザベルはピエールの黙っていた“真実”を知る。
黒髪のイザベルとティボーは病院で初めて出会う。『ポーラX』の人物の相関図は、ピエールとイザベル、ピエールとマリーの関係に限らず、すべて近親相姦的であり、光と闇を融合させることの可能性と不可能性を描いているといえる。さらに、ブロンドのピエールと黒髪のティボーが再会する親密なショットは、同性愛的でもある。

『ポーラX』4Kレストア版 (C) ARENA FILMS / POLA PRODUCTION / THÉO FILMS / FRANCE 2 CINÉMA / PANDORA FILMPRODUKTION / EURO SPACE / VEGA FILM
経済的に苦しくなったピエールは、謎のカリスマ小説家“アラジン”を共に作りだしたマルグリット(パタシュー)に相談する。マルグリット・デュラスを想起させるルックスの彼女は、ロベルト・ムージルの言葉を引用し、この世の陰鬱な真実を暴きたがっているピエールに忠告する。「世を罰すれば、世の報いを受ける」と。しかし、ピエールは危険なテロリスト集団のボスに心酔していく。ピエールは廃墟のような工場で扉を作る。ホテルのシーンと同じように、ピエールは女性たちと別々の部屋を作りたがる。レオス・カラックスは俯瞰撮影で、この仕切りの脆弱性を露呈させていく。ある日、イザベルが民族楽器のような古いアコーディオンを弾く。その音がピエールのペンを走らせる音と重なり、病気のリュシーがこの廃墟にやってくる。ここでも書くこと=創造行為は、不穏なイメージを召喚している。ピエールによるリュシーの首元へのキス。イザベルによるピエールの首元へのキス。キスの“傷跡”が3人をつなぎとめている。
「強さは傷の数や深さからは生まれません。(中略)強さとは、風が私たちをどこへ吹き飛ばそうとも、自分が立つ地点から生まれるのです。」(レオス・カラックス)*1
レオス・カラックスの未遂に終わったプロジェクトに「Scars(傷跡)」という映画があるが、『ポーラX』はまさしく美しい傷跡に関する映画である。強さの傷跡に関する映画である。それは愛されたということを証明する傷跡である。破滅へ向かうピエールを、イザベルとリュシーという2人の“姉”が助けに走る。「私の弟よ!」。彼女たちの言葉が真実であろうとなかろうと、それは真実より強い真実となる。愛されたという傷跡は残り続ける。恐怖という傷跡は残り続ける。レオス・カラックスは、ここに立つことを“強さ”と呼ぶ。傷跡の奥深くを見つめ、その深淵の入り口に立つことを“強さ”と呼ぶ。この映画の観客は、底の見えない美しさと恐怖の前に慄然と立たされる。
この原稿を、若くしてこの世を去った、傷だらけの2人の特別な俳優、ギョーム・ドパルデューとカテリーナ・ゴルベワに捧げる。
*2. Cahiers du Cinema(numero.535)
映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。
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