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『プロジェクト・ヘイル・メアリー』原作への忠実度と改変。そのバランスが理想的な映画化

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』原作への忠実度と改変。そのバランスが理想的な映画化

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特異な“異星人”に、原作・映画それぞれが愛おしさを追求



 今回の映画化で期待と不安が入り混じったのは、地球外生命体ロッキーのビジュアルだろう。ロッキーが暮らすエリドは、地球と同様、アストロファージによって危機を迎えており、グレースもロッキーも、ただ一人で任務に挑まざるをえない立場として“バディ”になる。予告編で早くから、その映像は判明していた。過去のSF名作を振り返れば、地球外生命体で友好的な関係となるもの(『未知との遭遇』(77)、『E.T.』(82)など)には人間に近いデザインが多く、シンパシーも湧きやすかった。ロッキーは岩石の固まりのような外見で脚は5本、顔がどこかも判別できず、そのままでは感情移入しづらい。『メッセージ』(16)でも人類に友好的ながら特殊なデザインの生命体が登場したが、コンタクトは限定的で、神秘性と畏怖を感じさせる存在だった。


 原作では、そのロッキーの“愛らしさ”を伝える表現が見事だった。グレースはロッキーの発する周波数の音から意図を解析し、ソフトウェアを使って会話ができるようにする。その結果、ロッキーの音は、言葉を覚えたての子供のように変換され、単語の羅列も多く、それがやたらと可愛かった。ロッキーの疑問が必ず「~~、質問?」と、いい意味で間の抜けた感じに表現されるのも(小野田和子氏の翻訳も秀逸)、作品全体に軽やかな印象を加味した。



『プロジェクト・ヘイル・メアリー』


 そのロッキーの映像化にあたり、映画版の作り手は原作に誠実だったと言える。人間とは異質の動きもあえて見せながら、だんだんとその動きが愛おしく感じられるという高度なアプローチに挑み、成功した。映画として視覚化することで、あるシーンでのロッキーの窮地の深刻さは際立ったし、何より、人間とは違って視覚を持たないエリディアン(ロッキーの故郷の星エリドの住民)は、鋭敏な聴覚によって対象の情報を読み取るのだが、それがどのような感覚なのかを映像で見せるシーンも作られた。文章では不可能な映画だからこその手法で、ロッキーへの感情移入が高まる効果ももたらされる。


 そのロッキーとグレースの関係には、映画版独自の心憎いアレンジも用意。ロッキーとの対話を模索するグレースが、『未知との遭遇』のあの有名な「5音階」を試す。地球外生命体とのファーストコンタクトという点で、SF映画の歴史にオマージュを捧げる、微笑ましい演出となった。また、映画版に頻繁に登場するのが、ヘイル・メアリー号の中にある巨大なプロジェクターで、そこには地球の風景が映し出され、グレースの心を癒すのだが、これは原作には登場しない。後半は、ここでロッキーも地球について知るシーンが挿入され、視覚的な効果として映画らしい新たな創作となった。映像的な広がりという点では、グレースが間近で目にするロッキーの宇宙船は、そのあまりの大きさと神々しいデザインが、おそらく原作でイメージしていたものを超越したのではないか。




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