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『プロジェクト・ヘイル・メアリー』原作への忠実度と改変。そのバランスが理想的な映画化

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』原作への忠実度と改変。そのバランスが理想的な映画化

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細部のアレンジによる映画らしい効果の発露



 原作からの細かい変更では、エヴァ・ストラットの歌う曲も指摘しておきたい。ストラットは、このヘイル・メアリーのプロジェクトを仕切る最高責任者で、グレースをリクルートし、最終的に宇宙に行かせる。作品全体を通して冷血でシビア、強権的な人物として描かれる彼女だが、ところどころ人間性とユーモアを感じさせる部分があり、そのひとつがカラオケのエピソード。原作ではカラオケなど絶対にやりそうもないストラットの意外な一面として短く紹介されるだけだが、映画版ではグレースが彼女の素顔を察するうえで重要な場面として機能している。そこで歌われるのはハリー・スタイルズの「サイン・オブ・ザ・タイムズ」。歌詞は、「もう泣かないで、新しい時代の兆しだ。僕らはここから離れなければいけない」と、人類の危機を救うミッションも示唆し、映画らしいエモーショナルな味わいを届ける。同時に、その場にいるグレースの孤独感も表し、作品全体でも忘れ難いシーンとなった。原作のわずかな描写を膨らませる、最高のアレンジと言える。



『プロジェクト・ヘイル・メアリー』


 その他にも、映画版で強調された表現はいくつも発見できるだろう。ストラットの部下でグレースを迎えに来る陸軍兵士が、映画版ではグレースの実験の相棒となり、後半のグレースとロッキーの関係とともに、本作のバディムービー的魅力を増幅する。また、グレースが学校の授業で生徒に周波数の話をするが、これが後のロッキーとの対話の伏線になっているのは、映画版の方が鮮明だ。一方で映画版ではあまり深く突っ込まれないのが、エリディアンと人間の時間の感覚の違い。原作ではロッキーたちの平均寿命は689年と言及され、その点が終盤のグレースの心情にも関わり、切なさがプラスされていた。


 原作におけるグレースの大きなモチベーションは、子供たちの未来。彼らに不幸な未来が訪れないよう、自らの命に代えてもこのミッションを完遂させようとする。基本はポジティヴで、どこか軽妙なキャラのグレースも、そこだけは揺らがないのは、彼が教師を天職と自覚しているから。その部分を映画版はそれほど深く切り込まないが、ラストではっきりと示されるのは、原作と同じだ。


 あのラストシーンこそ、原作を読んだ人は期待と不安で映画版に向き合ったはずで、大きく改変される予感も抱きつつ、忠実に再現されたことに幸福感をおぼえるのではないか。まったく違う世界で、ちょっと比較するのは極端だが、「国宝」は映画版(25)で、ちょっと次元を超えた世界に連れていく原作のラストが再現されなかった。たしかに描写するのが難しかったのはよくわかる。しかし同じく難度の高いラストを原作どおり映像にしてくれた『プロジェクト・ヘイル・メアリー』には、感嘆するしかなかったのである。



文:斉藤博昭

1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。クリティックス・チョイス・アワードに投票する同協会(CCA)会員。




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『プロジェクト・ヘイル・メアリー』

大ヒット上映中

配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

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