©2025 Remembers / mountainA / France 3 CINEMA
『ARCO/アルコ』設定の異なる“2つの未来”を描いた、グラフィカルな傑作アニメーション
明るい未来を創造したSF
そして物語の本当のフィナーレは、一見、おまけのように映し出される、最後のクレジット直前部分にこそ訪れる。そこでは間接的に、成長したイリスが、家族が集い過ごすことのできる“あるもの”を設計した開発者であったことが示唆される。この真の結末は、タイムトリップを扱った作品らしく、本作に鮮やかでSF的なストーリー上の“円環構造”をもたらしている。それは、やはり劇中で“虹”という現象が、未来からの時間旅行者の産物であると意味づけられる趣向に重なるものだ。
つまり劇中に描かれた2932年の穏やかな生活は、機能性や効率を追求し、人間性が希薄化してしまった2075年という、人類がより幸福を感じられる生活を生み出すまでの過渡期を通り抜けたものであり、その欠如を当事者として経験したイリスが、数百年先の未来のために、テクノロジーと身体性が調和する世界をデザインし直した結果なのである。この時空を繋ぐ円環は、いま個人が感じている小さな悲しみや違和感が、より良い文明を築く種となり得るという、控えめながら力強い希望を提示しているといえるのだ。

『ARCO/アルコ』©2025 Remembers / mountainA / France 3 CINEMA
ビアンヴニュ監督は、SF作品では悲観的な未来が描かれがちだと述べ、明るい未来を創造したかったのだと説明している。それは、筆者が以前、直接話を聞いたことがある、アメリカのSF作家ケン・リュウの意見とも合致する。そういう意味では、この問題意識には、世代的な感覚もあるのかもしれない。しかし、われわれがいる現実の社会の動きが継続されていけば、人類にとっての未来が幸福な状況に至ることは難しい。だから、ここでは2つの未来像を描く必要があったのだろう。
本作『ARCO/アルコ』が世界で大きく評価されたのは、BD風の美しいビジュアルだけでなく、ストーリーやテーマとしてのオリジナリティや、いま子どもの世代に伝えるべきメッセージが的確だと判断されたからなのではないか。そしてそこには、宮沢賢治の「風の又三郎」にも似た、寓話性と子どもへのあたたかな視点もある。それは残念ながら、現代において商業的な成功に一部反しなければ到達できないものだといえる。そうした作品こそ、賞や批評家によって、狂奔する現在の功利主義などから守られなければならないと感じるところだ。
文:小野寺系
映画仙人を目指し、さすらいながらWEBメディアや雑誌などで執筆する映画評論家。いろいろな角度から、映画の“深い”内容を分かりやすく伝えていきます。
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『ARCO/アルコ』
TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中
配給:AMGエンタテインメント ハーク
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