©2025 Lumière & Co. / Tarantula / Tellfilm / Vision Distribution
『ヒトラーの毒味役』過酷な運命に巻き込まれた女性たちの、一口一口の戦い
95歳の女性が遺した証言をもとに
この映画が私の関心を掻き立てたのにはふたつの理由がある。まずはこの物語が実在の人物の証言に基づくものだということだ。
2012年、当時95歳のマルゴット・ヴェルクというドイツ人女性がメディアに衝撃の告白を行った。それによると(本作よりも多めの)十数人の女性たちが2年以上の間、「毒見役」の仕事に携わった。ヴェルク自身はある時、ベルリンへ舞い戻ることを決意してその地を離れたものの、残りのメンバーたちは皆、やがて乗り込んできたソ連軍に射殺されたらしい——。
ヴェルクは、ナチスの協力者としてみなされる事を恐れて、長らく自らの体験について口をつぐんできた。しかし高齢となり、意を決してようやく重い口を開けたのだ。

『ヒトラーの毒見役』©2025 Lumière & Co. / Tarantula / Tellfilm / Vision Distribution
証言は世間を驚かせ、同内容を扱ったドキュメンタリー作品や小説、戯曲まで誕生した。ただし、ヴェルク自身はその後に亡くなり、すなわち毒味係の生き証人は一人残らずいなくなってしまった。
ドイツでは戦後、ナチスドイツに関するあらゆる詳しい調査が行われている。しかしこれまでのところ、歴史家たちによると、(狼の巣における)「毒味係の存在」を裏付ける他の証拠や証言は見つかっていないという(と同時に、ヴェルクの証言を否定するような事実も見つかっていない)。
この女性が死を前にして虚偽の証言を行ったことは考えにくい。しかし記憶とは、時に認識の違い、極度のストレスやトラウマ、あるいは時間の経過によって形を変えることがある。彼女の証言を大切に受け止めつつ、さらなる検証や実証のためには、今後もそれ以外の資料や証言と付き合わせ、多角的に状況を分析していくことが求められるだろう。