2026.09.02
スピルバーグ作品に通底する“家族の崩壊”
見どころは、計算し尽くされた映像テクニックだけではない。スクリーンで生々しく躍動するキャラクターも、最高に魅力的だ。
ゴールディ・ホーン演じるルー・ジーンは、どこまでも無邪気でチャーミングな魅力を放つ。彼女に悪意は微塵もなく、我が子を取り戻したいという純粋すぎる愛情だけで突っ走る。情熱的なキスひとつで気乗りしない夫をあっさりと丸め込み、ポンコツ車を盗んではスピードが出ないとプンプン怒り出す。そんな彼女の自由奔放で愛くるしいエネルギーこそが、この映画の強力なエンジンだ。ルー・ジーンの姿には、自由を愛したスピルバーグ自身の母親の面影が強く投影されていると見て間違いないだろう。
対照的に、クロヴィスはすっかり妻の尻に敷かれた気弱な夫として描かれている。人質であるスライド巡査にすらペースを握られかねない頼りなさだが、どこか憎めない愛嬌がある。妻への深い愛情ゆえに、文句を言いつつも無茶な計画に巻き込まれていく姿が、なんとも人間臭くてチャーミングだ。

『続・激突!/カージャック』(c)Photofest / Getty Images
そもそも、福祉局に子供を奪われ、その我が子を取り返そうとする逃避行の設定そのものが、スピルバーグ作品を貫く最大のテーマ=すなわち“家族の崩壊と親の不在”をはっきりと示している。『未知との遭遇』(77)では家庭を捨てる父親、『E.T.』(82)では両親の離婚に傷つくエリオット少年、『太陽の帝国』(87)では戦火のなか両親とはぐれてしまう主人公、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(02)では親の離婚から逃避する若き天才詐欺師。彼の映画において、家族の断絶はつねに物語の核心に横たわってきた。
興味深いのは、本作がそのテーマを子供の側からではなく、奪還に向かう親の視点から描いていること。社会のルールや巨大なシステムを敵に回してでも我が子を取り戻そうとするこの構図は、後年の『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(97)で、さらわれた赤ん坊を助けるべく、サンディエゴの街で大暴れするティラノサウルスの姿と完全に重なる。
スピルバーグは10代で両親の離婚を経験し、家族が引き裂かれるトラウマを抱えて生きてきた。彼にとって、離れ離れになった両親が自分のために揃って会いに来てくれるというシチュエーションは、現実には叶わなかった切実な願望なのだろう。無軌道で欠陥だらけのルー・ジーンとクロヴィスが、それでも我が子のために並んでパトカーに乗り込む姿には、若き監督が胸の奥底に秘めていた、家族の絆を取り戻したいという痛切な祈りが込められている気がしてならない。